『けいおん!』リクエストSS・澪短編「夜の王様」

「修学旅行も明日で終わりだな……」
俺――藤川咲夜が晩秋の冷たい風を肌に感じつつ三階のベランダから下界を見渡せば、そこに広がるのは百万ドルの夜景。人々で活気づく商店街の明かりが、まるで眠れぬ夜を暗示しているかのようだ。
「ああ、もっと女の子をナンパしたかったぜ」
そんな冒頭の美しい雰囲気をものの見事にぶち壊してくれたのは、遺憾ながら成り行き上俺の親友役を務めている男――遠藤亮吾が室内に二つ置いてある背もたれ付きのちょっと豪華な椅子に座りながら放った一言だった。顔はいいのにチャラい、でも顔がいいからモテるという、全国の非リア充を敵に回すために生まれてきた男、それが遠藤亮吾である。
「亮吾らしいね……」
その向かい側の椅子に座る男――神代修二が、亮吾の台詞にツッコミとも言えないほどゆるやかなツッコミを入れる。俺と亮吾が中学からの親友(遺憾ながら)なのに対し、修二と出会ったのは高校一年で同じクラスになったのがきっかけだった。勉強は苦手だけどスポーツが得意で、何よりお調子者である修二と俺たちは自然と仲良くなり、クラスの名物三人組としてそこそこ名の知れた存在になったのだが、それはまた別の話である。
「…………」
「ん、どうした、潤?」
ベランダの縁に両腕を組むようにして乗せ体重を預けている俺、その服の裾をちょいちょいと引っ張る小柄な少年が一人。こいつは雨宮潤(あまみや・じゅん)と言って、修学旅行の班が同じことからも推測できるだろうが、俺たちのクラスメイトだ。
潤と出会ったのは高校二年でクラス替えをしたときだった。成績優秀、スポーツ万能、男なのに少女のように整った顔立ち、とにかく隙が見当たらないほど完璧人間の潤は、必然的にクラスの人々から注目を集めることになる。そんな彼だから、もちろん友人もたくさんいるかというと……実はそうではない。潤は普段ほとんど言葉を発することがなく、自分から人に興味を持ったり話しかけるタイプでもないので、交友関係は非常に狭いのだ。実際、俺は潤が俺たち(咲夜、亮吾、修二)以外の友人と遊んでいる姿をあまり見たことがない。では何故俺たちと潤が一緒に遊ぶまでの仲を持つようになったのか。それは……まあ、潤のことが気になった俺たちが色々とちょっかいを出しているうちに反応を返してくれるようになった、とでも言おうか。別にいじめたりしていたわけじゃないから、そこんところは誤解しないでほしい。
ともかく、そんな無口な潤が今回も口を閉ざして、ジェスチャーとアイコンタクトだけで何かを伝えようとしている。潤の視線と指が向かう先を見ると、それは部屋の入り口にある木造の扉だった。
「外に誰かいるのか?」
「…………」
俺の言葉にこくりとうなずく潤。どうやら正解したらしい。潤は人一倍「人の気配」に敏感らしく、よく背後から近づいてくる人物が誰かを当てたりすることがあるのだ。
「まだ消灯時間じゃないよな。先生ってことはなさそうだし……」
現在時刻は午後9時を少し回ったところ。一応、消灯の定刻は10時と決まっているので、先生が「お前ら、早く寝ろ!」とほぼ無意味な忠告をしに来たという可能性はまずない。
「まあいいか。開けてみりゃ分かることだ」
桜が丘高校が貸し切っている旅館だ、不審者が来訪することもないだろうと思った俺は、後ろをとてとてとくっ付いてくる潤と共に扉へと向かい、その扉を開いた。すると、そこにいたのは……。
「うわっ!?」
「あ、さっくん、元気??」
「咲夜さん、こんばんはです♪」
いきなり扉が開いたことにびっくりし素っ頓狂な声を上げた田井中律、のほほんと俺を愛称で呼ぶ平沢唯、いつも通り礼儀正しい挨拶をする琴吹紬――要するに、俺が所属する桜高軽音部の女子メンバーだった。みんな旅館に備え付けてあった浴衣を着ている。
「……何してんだ、お前ら?」
思わぬ来訪者の出現に、俺の頭には疑問符がたくさん浮かんでいた。まさか修学旅行の夜に女子が男子の部屋へ遊びに来るとは誰も思わないだろう。それなんてエ(ry
「お、わざわざ軽音部の美少女ちゃんが俺たちに会いに来てくれるとは、嬉しいねぇ♪」
「少なくとも亮吾目当てではないと思うよ……」
後ろで亮吾が阿呆な発言をしているが、修二がツッコんでくれたので無視することにしよう。
「まあ立ち話もなんだな。入れよ」
どうせ律たちが帰るつもりはなさそうだし、誰かと鉢合わせする前に入れてしまうのが正しい選択かもしれない。そう考えた俺は、律たち三人を部屋へと招き入れた。そして扉を閉めようとしたが、その時になってようやく気が付く。
「あれ、そういや澪は?」
もう一人の桜高軽音部二年生部員にして俺の恋人――秋山澪の姿が見当たらない。恋人なのになぜもっと早く気付かなかったのかというお叱りを受けそうだが、突然の事態に動揺していたからだという回答で許してほしい。
俺は推理を始める。唯、澪、律、紬の四人で一つの班だったはずだ。寂しがり屋の澪が一人部屋に残るなんてことは考えづらい。とすると残る選択肢は、班長会議に出席しているか、もしくは風邪でも引いて保健の先生のところにでも行っているか……。
「ああ、澪ならあそこにいるぞ」
顎に手を当てて頭を悩ませていた俺に、律があっさりと答えを提示した。律が見つめる先にいたのは……。
「……何やってんだ?」
部屋からちょっと離れた二又路のところで隠れている澪だった。顔を申し訳程度に覗かせ、仲間になりたそうな目でこちらを見ている。
「あ、え、えと……」
某海賊漫画に出てくるトナカイみたいに「べ、べつに部屋になんか入りたくねーよ、このやろーがー!」とか言ったりはしないが、その表情からは「私も部屋に入りたい……」という思いがにじみ出ている。ただ、澪の性格からして夜に恋人の部屋を訪れるという行為が恥ずかしくて積極的には出来ないのだろう。こういうときは俺が背中を押してやるべきかな?
「あっ……」
俺は部屋を出て澪へ近づき、壁のへりを握っている澪の手に自分の手を重ねた。そのままぎゅっと手を握り、何も言わず部屋の方へと歩いていく。澪は顔を赤くして俯きながらも俺の後をついてきてくれた。
「よーし、おっじゃまっしまーすっ!」
「わ?い、さっくんたちのお部屋だ?♪」
「お邪魔します(ニコッ)」
「お、お邪魔します……」
俺が澪を連れて帰ってきたのを確認し、律、唯、紬の三人は部屋へと入る。俺と澪もその後に続き部屋へと入った。
「それにしても、私たちが来たってよく気が付きましたね?」
自分たちがノックをする前に扉が開いたことを不思議に思った紬が俺に問いかける。
「ああ、潤が何か察知したらしくてな。教えてくれたんだ」
「潤、教えちゃダメだろ! サプライズだったんだから」
「…………」
律に理不尽な叱られ方をした潤はごめん、という目で律を見つめた。傍から見たら何を考えているのかよく分からないだろうが、仲の良い人が見ればその目は確かに謝っていると分かる。ちなみに潤は俺にくっ付いていることが多く軽音部の四人ともそこそこの交流があるから、少なくともこの場にいる者は全員潤の考えていることを理解できるはずだ。
「まあまあ、潤を責めるな。てかお前たちは何しに来たんだよ」
俺がそう聞くと、律どころか亮吾までもが「お前何言ってんだ?」という見下した目で俺を見る。何だ? 俺なんか間違ったこと言ったか?
「男女が夜一緒の部屋に集まってやることっていったら一つしかないだろ」
「ああ、一つしかないな」
さも当然のように答える亮吾と律。自分で聞いておきながら、男女が夜?という響きにいかがわしい妄想を掻き立てられドキドキしてしまう。そして、そんな俺の予想をいい意味でか悪い意味でかよく分からない方向に裏切る衝撃の単語が、二人の口から発せられる。
『それは……王様ゲームだ!』
「それは……」までハモるところに、馬鹿同士通じ合うところがあるんだな?と妙に納得してしまう。しかし「王様ゲーム」とは……。どこまで馬鹿なんだ、こいつらは。
「はあ……お前らな、そんなアホみたいなゲームに誰が付き合うん」
「私、やってもいいよ??」
「私もやってみたいわ?♪」
「俺も、まあ、やってみたい……かな」
「…………(こくり)」
俺がまだ喋っている途中にもかかわらず、次々とゲーム参加を表明していく仲間たち。あれ、俺の常識が間違ってるのかな? 高校生のノリってこんなもんなのかな?
俺はしばらく逡巡した。悩んで悩んで、そしてこんな名言を思い出した。
『踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃそんそん』
そのとき俺は決めたんだ。――阿呆になろう、と。(いいこと言った風の雰囲気を出したけど実際そんなでもない)
「よし、澪やるぞ!」
「え、ええっ!?」
自分からじゃ絶対に参加しそうにない澪をも強引に巻き込んで、健全な男女高校生八人による王様ゲームの火蓋が今、落とされた。


ここで王様ゲームを知らないよい子のみんなのために「王様ゲームとはなんぞや?」ということを簡単に解説しておこう。まず参加者は割り箸などで作られた番号付きのくじを一本引く。その割り箸の中には一本だけ先端を赤く塗ったものが含まれており、それを引いた者が王様に、その他を引いた者はその引いた番号を持つ者となる。王様は「○番が×番に△△する」といったような命令を出すことができ、たとえその命令がいかに理不尽な内容だろうとも、指名された番号の者はその命令に絶対服従しなくてはならない。いわば16世紀のヨーロッパで栄えた絶対王政を模したロールプレイングの一種であり、健全な男子高校生にとってこれ以上ないほど憧れの遊戯だったりするのである。
説明が終わったところで次は参加者の紹介といこう。男子は咲夜、亮吾、修二、潤の四人。因みにこの四人、性格は一部あれな奴がいるものの、顔だけ見ると皆なかなかのイケメン揃いなので、一部の女子たちからは「桜高のF4」とか勝手に名称を付けられていたりする。
一方、女子は唯、澪、律、紬の四人。今さら言うまでもなく、桜高軽音部の二年生女子四人組だ。男子と女子の比率が一対一、まさに王様ゲームにはおあつらえ向きの人数配分である。
さて、テンプレ通りの解説を終えたところで皆様お待ちかねの本編に移ろう。シャッフル係である紬が混ぜたくじの中から、各人が一本ずつくじを引いていく。全ての人が引き終わったところで、恒例の掛け声がかかる。さあ、王様ゲームの始まりだ!
『王様だ?れだ?』
「あ、私だ?♪」
初めに王様くじを引いたのは唯。あ、この節の実況は咲夜くんに代わり私、作者が担当させていただいております。

Round.1 王様:唯 fight!
「んーと、じゃあ……」
唇の下あたりに人差し指を当て、天を仰いでお願いごとを考え始める唯。その様子に、今は奴隷も同然な参加者たちはごくりと息を飲む。唯が一体どんな命令を下してくるのか、付き合いの長い仲間でも皆目見当がつかない。
唯はしばらく頭を捻らせていたが、やがて「あっ」という声とともに片方の手のひらをもう片方の拳で叩くという、何かを思い付いたときにするお決まりのポーズをとって言った。
「ケーキが食べたい!」
その瞬間、全員がひな壇芸人のようにガタガタと崩れ落ちる。
「お前なぁ、ルールわかってんのか!?」
あまりに突拍子もないことを言い出す唯に、真っ当なツッコミを入れる咲夜。
「え、王様の願いを何でも叶えてくれるゲームじゃないの?」
何の疑問も持たず平然と答える唯。やはり唯は何かを勘違いしているらしい。
「はあ……まあいいや。ほら、紬」
「はい♪」
咲夜の意図を察したのか、ムギは部屋の端っこへささっと移動する。そして再び皆がいる輪の中へ戻って来たときには、一体どこから調達したのか、手に美味しそうなショートケーキが乗っている皿を持っていた。
「うわ?、ありがとう、ムギちゃん!」
唯は目をキラキラ輝かせてケーキを見つめている。唯って食べ物さえ与えれば簡単についていきそうですよね……。お父さんは心配です。
「夜中に甘いもん食うと太るぞ??」
「もぐもぐっ……ごっくん。大丈夫だよ、私、いくら食べても太らないから」
律が意地悪そうに言ったが、唯は我関せずといった感じ。むしろ唯の発言に自身の体格を気にして落胆する澪とムギの姿が、見る者全員の同情を痛いほど誘った。

Round.2 王様:修二 fight!
二番目に王様となったのは修二。果たしてむっつりスケベの修二くんはどんな命令を下すのでしょうか。
「うーん、じゃあ4番の人に……」
そう言ってごそごそと鞄の中を漁り、中から取り出したるは……。
「このさわちゃん特製メイド服を着てもらおうかな」
黒と白のコントラストが眩しい、よくある萌え萌えなメイド服だった。なぜ修二がそんな衣装を持っているのか激しく疑問だが、そこは触れちゃいけないデリケートな部分なのだろうからみんな黙っている。
「ちょっと待て。しかも4番って……俺じゃねーかよ!!」
「げ、咲夜、お前かよ!?」
悲鳴を上げる修二と咲夜。どちらにとっても利益の発生しないこの状況を作りだしたのは、他でもない私、作者のまにまにです。
「そ、そうだ! 王様もなんか嫌がってるし、この命令はお流れに……」
メイド服を着たくない咲夜は、どうにかしてこの状況を打破しようと逃げ道を探す。そんな往生際の悪い咲夜へ向けて、修二を除く他の参加者から秘密兵器が放たれた!
「…………」
「な、なんだよ潤」
ぽん、と咲夜の前に立たされた潤。咲夜は意味が分からず困惑している。
「…………」
「うっ……」
そんな咲夜を、子犬のように愛らしい目でただただじっと見つめる潤。背が低いから自然と上目遣いで下から覗き込む体勢になっている。元々女の子みたいな顔立ちである潤がこんな風に迫ってくれば、流石の咲夜もたじたじである。
「むっ……」
そのやりとりを澪は頬を膨らませ面白くなさそうに見ていた。それはもちろん、自分の大好きな彼氏が可愛い男の子に誘惑(?)されているのだから嫉妬の一つくらいするだろう。え、私何か変なことでも言いました?
「……わかったよ。着るよ」
退路を断たれ追い詰められた咲夜はついに観念しメイド服を着ることになりました。因みに咲夜のメイド姿は……見ても別に面白くないでしょうから省略します。

Round.3 王様:咲夜 fight!
「ふ、ふふふ……覚悟しとけよ、修二」
次に王様へと就任したのは咲夜。先ほど修二にとんでもない恥ずかしめを受けさせられたせいで、口角が引きつった不気味な笑顔になっている。
「2番が6番に渾身の回し蹴り一発だ!」
「なっ!?」
修二の手に握られているくじ、そこに書かれている番号は……2。
「…………6番」
一方、6番のくじを引いたのは潤。咲夜くん、絶対に何か裏工作をしています。
「さあ潤、遠慮はいらない、あの馬鹿に天誅を食らわしてやってくれ」
「…………」
こくん、と頷く潤。潤は咲夜の命令には従順なのだ。
「ち、ちょっと待て潤! てか咲夜、お前絶対番号見ただろ!?」
「おいおい、変な言いがかりは止めてくれよ。回し蹴り二発に増やしちゃうぞ?」
さすがに怪しいと思ったのか、修二が咲夜の不正を暴こうとします。しかしそんな修二の揺さぶりにも動じず、毅然とした態度で迎え撃つ咲夜。久々に黒さっくんの御降臨です。
「わ、わかった! ごめんなさい! 一発で勘弁してください!」
結局、修二は咲夜のイカサマを見抜くことができず、素直に回し蹴りを受けることになった。やはり主人公対決では咲夜の方が一枚上手なようだ。
「…………」
まとまりがついたところで、潤はすう、と息を一つ吸い込み、回し蹴りをぶちかます体勢に入る。その構えは明らかに武道の心得がある者の構えなのだが、一体どこで習ったのかは定かではない。
「…………はっ!」
半眼で集中力を高めていた潤の眼光が突然鋭く光り、その華奢な身体からは想像できないほどの力で蹴りを放った。スピード、パワー、フォーム、どれをとっても一級品の回し蹴りに、観客から大きな歓声と拍手が沸き起こる。
「ぐああああああああああああっ!!!!!」
しかし、そんなパーフェクトな蹴りをもろに食らった修二はたまったものではない。断末魔を上げ部屋の端から端まで吹っ飛んだ修二は、そのまま息を引きと……意識を失った。
「な、なんか今“バキッ”とかいう鈍い音が聞こえた気が……」
「気のせいだろ、気のせい。さて、次行こうぜ」
修二の身を案じる澪と、借りが返せて御満悦の咲夜。因みに修二君は戦闘不能になったのでここでリタイアです。


Part.4 王様:亮吾 fight!
「じゃあ、3番が5番を情熱的に抱きしめる、だな」
エロ魔神の異名を持つ亮吾にしては、この命令はまだまともな方かもしれない。本人いわく「情熱的に」が重要な意味を含んでいるのだとか。
「お、あたし5番だ」
「…………3番」
「えっ! じゅ、潤!?」
5番を引いたのは律。3番を引いたのは潤。律は何やら焦っているように見える。
「おー、律よかったな。潤なら当たりじゃん」
「そうだな。少なくとも亮吾より全然いいだろ」
「おいおい澪ちゃん、それは酷いんじゃないか?」
結構好き勝手言ってる咲澪カップル。しかし超フェミニスト、もとい女たらしの亮吾は強く言い返せない。というか自分なりに自分のポジションを把握しているのか、特に反論する気もなさそうだ。
「い、いや、確かにうれしいけど……じゃなくて! いきなりそういう変な命令やめないか!?」
「何でだよ。王様の言うことは絶対だろ?」
「そ、それはそれ、これはこれだ!」
ちょっと本音が見え隠れしている律。咲夜の問いかけにもお茶を濁した言い訳しか返せていない。あれ、もしかしてりっちゃん、そういうことですか?
「なあ潤、潤からも言ってや……ひゃあっ!?」
「…………」
律が潤の方を振り向いたちょうどその時、ずっと黙りこくって(いつものことだが)会話を聞いていた潤が、無言で律の手を掴みその体を引き寄せ、ぎゅっ、と抱きしめた。
「な、あ、あっ……」
潤に思いきり抱きしめられた律は一瞬にして沸点突破する。潤の腕の中から抜け出そうと手足をじたばたさせているが、潤の力は先ほどの一件でもわかったように想像以上に強く、
律の力ではどんなに頑張っても潤の腕を振りほどくことはできなかった。
「へえ、潤やるじゃねえか。見直したぜ」
「潤くんって意外と大胆だね?」
「凄くいいわ……!!」
皆が口々に感想を述べる中で、ムギだけはひでんマシン5くらい目を輝かせてその光景を堪能している。おそらく潤が女の子っぽいことが興奮の度合いを高めているのだろう。
「じゅ、潤、もういいだろ? 早く離してくれ!」
「…………」
向かい合う体制で抱きかかえられているため、律は潤の顔を見ず肩越しに話しかける。しかし律の必死の訴えが通じることはなく、潤は律のことを離そうとはしなかった。
「気に入っちゃったんじゃないか?」
「じゃあもういいじゃん、そのままで」
「よくねーよ!」
そんなことを言いつつ、内心はもっとこうしていたいとか思っているのがバレバレなほど顔がにやけている律。隠れ乙女なりっちゃんの恋が少しだけ進展した夜だった。


Part.5 王様:潤 fight!
「…………王様」
王様ゲームも佳境に差し掛かり、潤が王様になる番がやってきた。女性陣が王様になる確率が低いのは話の展開上仕方がないので我慢してください。
「…………」
長い沈黙が部屋の中を支配する。正直なところ、潤が何を考えているのか誰にもわからなかった。まず、本当に考えているのかもわからなかった。
というのも、潤の腕の中にはまだ律がいたのだ。先ほどから体勢を変え律を後ろから抱きしめる形で座り、律の髪に顔をうずめている。自分の髪の匂いをくんかくんかされている律はもう恥ずかしすぎて戦闘不能状態に陥り、俯いたまま顔を上げようとしない。
みんなが「寝ちゃったんじゃないか?」と不安になりかけ始めたそのとき、潤は何事もなかったかのようにゆっくりと目を開け、そしていつも通り淡々とした口調で言った。
「…………1番と7番がキス」
「なっ……!?」
「えっ……!?」
潤の口から「キス」という単語が発せられただけでも相当な衝撃なのに、指名された人物がその衝撃をさらに大きなものにしていた。1番と7番を引いたのは――咲夜と澪。まるで潤が番号を知っていて、ピンポイントに狙いを定めたかのように思える。
「な、なあ潤、考え直さないか?」
「そ、そうだ! いくら何でもみんなの前でキスは……」
焦り始める咲夜と澪。澪なんて動揺しすぎて「みんなの前で」とかボロを出していることに気が付いていません。
「…………1番と7番がキス」
しかし王様の潤はあくまでも命令を変えようとはしない。このモードに入った潤はどんなに説得されても自分の意見を貫き通す。そしてその感情のこもっていない、他人に有無を言わさぬ強い言い方には、誰も逆らうことが出来ないのだ。
「ほら、王様が御立腹だぜ?」
「そうよ! キスした方がいいと思います!」
亮吾が潤の様子を察してか、咲夜と澪にキスすることを促す。ムギも興奮した気配でそれに乗っかってくる。かなり個人的な感情が表に出ているような気もするが、きっと気のせいだろう。あと生き残っているただ一人の第三者である唯も、ほんのり頬を赤らめつつ、今から目の前で起ころうとしているロマンスに心を奪われているようだった。
「????だあああ! もう!」
八方塞がりとなった咲夜は、もうこうなったらやけだ、と雄叫びを上げる。
「澪っ!」
「は、はい!」
いきなり大声で名前を呼ばれた澪は驚いて身をすくませる。しかしそんなことはお構いなしと言わんばかりに咲夜は澪の肩を掴み、正面を向かせる。
最初は戸惑っていた澪だが、やがて意を決したように目を静かに閉じる。それを確認した咲夜は、澪のふくよかで柔らかい唇に自分の唇を近付け、まさにキスをしようとしたその瞬間――――。

ガチャッ、という音とともに、部屋の扉が開いた。


「あなたたち、何をやっているんですか!?」
俺と澪の唇はゼロ距離まで接近し今にも触れ合おうとしていた。それをまるで図ったかのような絶妙のタイミングで阻止したのは、ホテル中に響き渡るのではないかと思えるほど大きな怒号だった。俺たちは何が起こったのか全く理解できず、その場でただただ硬直してしまう。
「もう消灯時間はとっくに過ぎてますよ! しかも男子の部屋に女子が入りこむなど、なんて破廉恥な……!!」
この甲高い声には聞き覚えがあった。校内でも規律に厳しいと評判の女性教師だ。語尾に「ざます」が付きそうなベタベタの三角眼鏡をいつもかけていて、眼鏡の下には可愛らしいお顔が隠されているとかいう都市伝説が噂だっているらしい。
って、今はそんなことはどうでもいい。その女性教師は部屋の中へずかずかと足を踏み入れてきている。このままでは不純異性交遊(?)の現場を押さえられてしまうのも時間の問題だろう。そして学園生活に支障が出るような処罰を下されてしまうのは間違いない。俺たち男共はまだいいのだが、軽音部のみんなに不名誉な箔が付くことは避けたい。
俺は皆と視線を合わせる。亮吾、潤、紬の三人は既に状況を理解し、また俺の考えていることを少なからず理解しているようだった。それなら話は早い。紬の瞬発力に少し不安が残るが、そこは運を天に任せるしかない。大丈夫、このメンバーならきっと上手くやれる。俺の中には根拠のない自信が沸々と湧きあがっていた。
俺はもう一度三人に目配せをし、最後に未だ硬直している澪を見つめた。目の前にいるお姫様を護ること。それがただ一人の騎士-ナイト-に任命された俺の役目だ。
「『三十六計、逃げるに如かず』ってな…………拡散!」
俺が発したその掛け声を合図に、亮吾が修二を肩に担いで、紬が唯の手を引いて、潤が律をお姫様だっこして一斉に走り出す。
「やあ、先生。今日も一段とお美しいですね」
「な、あなた、何を言って……」
「(失礼します!)」
「…………」
亮吾が先生の気を引きつけている間に、唯を連れた紬と律をだっこした潤が横をすり抜けていく。緊急事態にもかかわらず、紬の顔はどこか高揚感に満ち溢れていた。潤は相変わらずの無表情で、特に何も感じていないようだった。
「さて、じゃあ俺も行くかな。咲夜、あとは頑張れよ!」
「あ、こら、待ちなさい!」
紬たちが去っていくのを見届けた亮吾は色仕掛けを止め、持ち前の走力で廊下を駆け抜けていった。後に亮吾はこう語ったそうだ。「俺は年増に興味はないんだ」と。
あっという間に六人がこの旅館内のどこかへと消え、部屋には俺と澪の二人だけが残される。いや、先生がいるから三人か。
「あなたたちは逃げ遅れたようね。観念しなさい」
獲物を追い詰める猟師の目をした先生に迫られる俺たちは、じりじりと後ずさりすることしかできない。全身に当たる冷たい夜風が、体を湿らせる汗を少しずつ乾かしていく。
やがて背中に固いものが当たる感触が伝わる。これ以上退くことはできない、まさに絶体絶命のピンチ。ただ俺は知っている。ヒーローは、ヒロインのためならどんなことでも成し遂げられることを。
「澪、これからちょっと怖い思いさせちゃうかもしれないけど、我慢してくれよな?」
「咲夜……?」
俺が小声でそう呟くと、澪は不安そうに顔を歪める。今にも泣き出しそうな澪の顔を見ると心が痛んだが、こうするしか助かる術はないのだからここは我慢するしかない。俺は澪をおんぶして、澪にしっかり掴まっているよう指示した。澪の手が俺の首にがっちり回されているのを確認して、俺は先生と対峙した。
「じゃ、先生。おやすみなさい。あ、永遠にとかいう意味じゃないですから安心してくださいね?」
「……? 一体何を言って」
俺が先生の言葉を最後まで聞くことはなかった。その代わりに聞いたのは澪の悲鳴。ああ、これで人が集まって来ませんように……と、俺は落下しながら祈った。え、何で落下してるかって? そんなもん、“ベランダから飛び降りたから”に決まってるだろ?


ベランダから飛び降りた……といってもまさか本当に直接ダイビングしたわけではない。三階ならまだ助かるかもしれないが、よくても骨折は免れない高さだ。俺は地上めがけて飛び降りるふりをして下の階のベランダへと飛び移り、一階一階降りていったのだ。しかしこれだって書くのは簡単だが実際はかなりの重労働だ。何せ澪を背負っていたのだから。
「ふう……ここまでくれば見つかることはないだろ」
「はぁっ、はぁっ……」
澪を傷つけないように十分注意しながら地上へと降り立った俺は澪を背中から下ろし、澪の手を取って旅館の外へと脱出する。ばれたら停学ものだろうから、追手がいないのは不幸中の幸いだった。まあ先生に見つかって逃げた時点でもうかなりやばいんだろうが。
「悪かったな、怖がらせちゃって」
「いいよ、無事、だったん、だから……」
全速力で走ったため上がった息を整えながら澪が言う。ベランダから降りる際は恐怖で泣きじゃくっていた澪だが、走っているうちに涙は引いていったらしい。
「さて、これからどうするか……」
時刻は午後10時半ちょっと前。遠くの方で夜はこれからとばかりに光る商店街の明かりが、俺たちを手招きしているように感じられた。
こうなったらもうやけだ。高校生活最初にして最後の修学旅行、締め括りくらいは恋人と一緒に過ごしてもいいんじゃないか。どうせ怒られるなら、楽しまなきゃ何とやらだ。
「澪、想い出を作ろうぜ」
「え……?」
俺が商店街へ行きたいという旨を伝えると澪は少し迷った顔をしたが、思っていることは同じだったのか首を縦に振ってくれた。それを見て俺は繋いだままの手を引っ張り、商店街の方へと足を向け――
「おっと、その前に……」
――る前に、やっておかなきゃいけないことがあった。これをやらないと後で潤に怒られちゃうからな。俺は澪の顎に手を添え、くいっと上を向かせた。暗闇の中、しっとりと濡れた“それ”は月の光を浴びて美味しそうに光っていた。もちろん、繋いだ手は離さない。
「んっ……」
修学旅行中一度も味わうことのなかった澪の唇はとろけそうなほどに熱を持っていた。唇が触れるだけの軽いキス。それだけでも十分だった。もっと深いのは……その、あれだ。後でやればいいし。飽きるほど。
唇と唇の意思疎通を終えた俺と澪は、仲良く横に並んで歩きだす。色々と厄介なことはあるが、それはとりあえず置いておこう。今はただ、隣にいる彼女と一緒に忘れられないひと時を過ごすことだけを考えて、俺たちは夜の街へと繰り出して行った。


(終)



【あとがき】
あのね、王様ゲーム長い。そこで力尽きて最後が完全に尻切れトンボになった。後日談も書こうと思ったんだけどもう気力がなかった。……あ、こんにちは、綺羅矢的です。
まずこれは「けいおんSS」と呼んでいいものか激しく疑問です。修学旅行ネタだし、登場人物が多くなるのは仕方ないんですが、明らかにオリキャラの方がたくさん喋ってますよね。てか、自分で新たに作っといて何ですが、潤くんに愛を注ぎすぎました(笑)。
その話題の潤くん、初登場にして大活躍です。正直、修二よりいいキャラして……ゲフンゲフン。いや、修二って咲夜とキャラ被ってるからインパクトがないんですよね。自分で作っといて何ですが。その点、無口キャラは今までにいなかったタイプなので大分動かしやすかったです。背を小さめに設定したのも冒険でしたが上手く作用した気がします。
途中、若干BLっぽく演出したのは仕様です。でも咲夜の一番は澪なので安心してください(笑)。まず僕がBL好きじゃないので本気にはなり得ません。そっちの需要があるなら別ですが……ww
さて、長期に渡った(誰のせいだ)けいおんリクエストSSも、いよいよ次がラストの作品となりました。今回も王様ゲーム終了時までは気合入れて書いたんですが、やはりラストですから、全編に渡って納得できるように書いていきたいと思っています。題材がなかなか難しいんですがね。大まかなあらすじは完成しているので、後はじっくりと肉付けをしていきたいと思います。けいおん最終回までには……流石に間に合うよね? では!ノシ
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テーマ : けいおん!
ジャンル : アニメ・コミック

『けいおん!』リクエストSS・番外編「大好きを歌うよ」

「軽音部の紹介ビデオを作ろう!」
期末試験と夏休みの間に存在する、午前中で授業が終わったり蒸し暑い体育館でどっかからやってきた偉い人のお話を聞いたりするあの一週間。その中盤に差しかかったある日の放課後、音楽室でいつものように行われていたティータイムのゆったりとした雰囲気をぶち壊したのは、急にイスから立ち上がってわけわからんことを叫んだ田井中律だった。
「いきなりどうしたんだよ。この暑さで頭がおかしくなったのか?」
「澪、それは元々だろ」
「おいサク!」
澪と咲夜の小馬鹿にした態度に、律が怒りの声を上げる。二人の態度はかなり失礼な部類に入るが、律が普段取っている行動に鑑みれば、そんな態度に出るのも仕方のないことかもしれない。
声を荒げた律はこほんと一つ咳払いをして、息を整えたあと再び話し始める。
「前に新歓用のビデオを撮ったことがあっただろ?」
「あ、あのグダグダになったやつだね!」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
自分のことを棚に上げてあははと笑っている唯に怒り心頭の律。さっきから一台詞ごとにちゃちゃが入るので、話が全く進まない。
「あー、このままじゃ埒が明かないからちゃんと聞こうぜ?」
そんな状況を見かねた咲夜が場を纏める。話を円滑に進めようとするのは主人公として正しい姿勢であり、評価してあげたい。
「ったく……。で、私たちは来年卒業だろ? つまり、来年新入生が入ってこなかったら、軽音部は梓一人になってしまうわけだ」
律が真面目な口調で話を始める。いつになく部長っぽいその語り口に、先ほどまでふざけていた(当人はそう思っていないだろうが)咲夜たちも真剣に話を聞いている。
「だから、来年はちゃんとした部活紹介ビデオを作って新入生を大量にゲットする。そうすれば我らが放課後ティータイムの将来は安泰なわけだ!」
律の力説に耳を傾けていた軽音部の面々はおおー、と歓声を上げながらパチパチと拍手する。律は「私イカしてるだろ」みたいなドヤ顔でその喝采を全身で受け止めていた。
「じゃあ俺がカメラマンやるか」
「え、咲夜は映らないのか?」
「俺が映ったらせっかくの華やかさが台無しだろ? こういうのは女子だけの方が釣れるんだから」
「釣るって、サク先輩……」
「むしろサクが映った方が女の子集まりそうだけどな」
うんうんと頷く咲夜以外の面々。付き合いが長いといっても、やはり可愛い女の子からそういう反応を返されるのは歯がゆいらしく、咲夜は頭を掻きながら少しだけ照れている。
「いいんだよ俺は。そういうの向いてないし。どうしてもって言うなら、動画の最後に『超監督:藤川咲夜』とか入れといてくれ」
「どういう意味ですか?」
「いや、特に意味はないけど」
相変わらず無駄にオタクな知識を持っている咲夜。休日に家で一日中パソコンいじってるような人間だからそっち系の事情にも強いのだろう。
「じゃあ早速とりかかろー!」
『おーっ!』
唯の元気一杯な掛け声に続くその他の部員たち。そんなわけで『第一回・桜高軽音部?ドキッ!女だらけの大ビデオ撮影会 in summer(仮)』の幕が上がった。


Scene1.平沢唯
「じゃあまずは唯な……って、あれ? あいつどこに」
「ふんす!」
「うおっ!?」
咲夜の構えていたビデオカメラの下から、奇妙な効果音とともに唯が飛び出した。もちろんカメラには唯の顔がどアップで映し出される。
「いきなり変なところから現れるな!」
「えへへ、さっくんのことおどかそうと思って♪」
「……まあいい。ほら、早くあっちいって準備しろ」
「は?い!」
驚かされた咲夜は唯を叱りつけようとするが、唯の浮かべる無邪気な笑顔を前にするとそんな気も削がれるらしい。手であっちいけとジェスチャーして投げやりな様子を見せているが、それはただの照れ隠しにすぎない。
「……甘いな」
「甘いですね」
「サクは天然な女に弱い、と……」
「そうだったんだ……」
「お前らうるさいぞ! 喋ってないで撮影の準備しとけ!」
「へーい」
言われたい放題の咲夜。自身の性癖まで分析され形無しだ。
「ったく……。じゃあ唯、フリップ持ってそこに立って」
「もう立ってるよ?」
「お、悪い。じゃあ撮るぞ……。しかしあれだな、唯のフリップは随分と可愛らしいな」
「でしょ?? 頑張って可愛らしくしてみました!」
「ああ、可愛いよ、唯」
「えへへ、さっくんに褒められた?♪」
咲夜は唯の頭をなでなでする。途中から「可愛い」の被修飾語を省いているせいで「リア充爆発しろ」みたいな空気を醸し出しているが、何のことはない、ただ唯の描いたフリップが女の子らしく装飾されていて可愛いという会話をしているだけだ。
「……バカップル」
しかしその様子を二人がイチャイチャしていると解釈した澪は冷たい視線で二人を睨んでいる。二つ名を付けるとしたら「氷の魔女」がいいかもしれない。
「せ、先輩、顔が恐いです!」
「お、落ち着いて、澪ちゃん」
「サクも天然だからなぁ……」
そんな嫉妬の炎をメラメラと燃やしている氷の魔女をどうにか落ち着かせようとする梓、ムギ、律。撮影会は一人目の前半から既に前途多難なようだ。

「じゃあ最後に『私はギターやってます』アピールだな。ギー太で適当になんかやってくれ」
「了解であります!」
使うかどうかわからないカットを適当にいくつか撮ったあと、このビデオのメインともいえるギター演奏シーンの撮影に突入する。咲夜の指示に唯は敬礼ポーズなんかしちゃってやる気満々だ。何か考えがあるのだろうか。
「じゃあ撮るぞ。3,2,1……」
カメラを構えた咲夜が手でキューサインを出す。そして……。
「私の相棒のギー太です!(ジャジャーン!)」
極上の笑顔と共に、両手でギー太を自分の前に掲げる唯。因みに「ジャジャーン!」というのはギターをかき鳴らす音……ではなく、漫画とかで何か物を取りだしたときに添えられる効果音を比喩したものである。つまり唯はギターを全く弾いていない。
「いや、見せるだけじゃなくて弾けよ!」
「えー、だってみんなにギー太の姿をちゃんと見てもらいたくて……」
「だからってギターかざすだけはなぁ……。一応軽音部だし、やっぱり弾くふりでもいいからした方がいい気はするが……」
「……だめ?」
唯は祈りを捧げるシスターのような格好をしながら、瞳を潤ませて上目遣いで咲夜を見つめている。このコンボは反則級で、弱パン→強パン→必殺技の三連コンボを食らった咲夜は瀕死状態だ。
「う……ま、まあ、今回だけ特別だぞ」
「やったー! さっくん大好き?!」
「うわ、いきなり抱きつくな! 危ないだろ!」
唯のコンボに屈した咲夜がそのままでいいと了承すると、それに喜んだ唯が咲夜に勢いよく抱きついた。文字面だけ見ると魔性の女みたいにとられてもおかしくない行動だが、これを素でやっていることはけいおん好きの皆様ならご理解いただけるだろう。
そしてそんな天然バカップルを遠目で見ていた残りの女子の反応は……。
「(ブチッ!!)」
「み、澪さーん? なんか今すごい音しましたけど……」
「完全に怒りMAXですね……」
音楽室を焼き尽くすんじゃないかってくらい嫉妬の炎を燃やし続けている澪と、もはや説得するのは不可能だと一歩引いている他三人。氷の魔女から炎の魔女に改名した方がいいかもしれない。
「さ、咲夜さん。つ、次の人いきましょう?」
「ん? ああ、そうだな」
自分がこの騒動の引き金になっていることに全く気付いていない天然な咲夜は、ムギの促しによって唯の撮影会を終え、次の人物の撮影会を開始した。


Scene2.田井中律
「次は律か……」
傍目にも分かるくらいやる気のない口調で咲夜が言う。
「なんでテンション下がるんだよ!」
「いや別に。何となく」
「テンション下がってることは否定しないのな……」
ぞんざいな扱いを受け、険しい表情をする律。普段は男っぽい律だが、こんな風に男子から興味なげな態度をとられると乙女心が傷つくようだ。
「別に唯の時もそんな上がってないって。ほら、早くスタンバって」
「はいはい……ニコッ☆」
咲夜がカメラを構えた途端、不機嫌そうだった律の顔が満面の笑みに変わる。どこぞのヤック・デカルチャーみたいな語尾を付け、まるで気分はアイドルだ。
「凄い営業スマイルですね……」
「さすが律だな……」
その変わり身の早さに、梓と澪は苦笑しながらも感心している。
「どうでもいいけど律、字汚くないか?」
「悪かったな」
「あ、元に戻った」
咲夜の暴言に再びしかめっ面へと変容する律。その様子はまさに一人百面相だ。
「りっちゃんって演技派ね?」
「いや、違うだろ……」
そして一人このやりとりをなんだかすごく肯定的に解釈しているムギに、澪が呆れながらツッコミを入れた。ムギのポテンシャルもなかなか高いように思えるのは僕だけだろうか?

咲夜がドラムセットに座っている律へカメラを構えて言う。
「後はドラム叩くシーンだな」
「はいはい、どうせ撮ってて楽しくなさそうだからちゃっちゃと終わらせるかな?」
「完全に拗ねちゃってますね」
「まあ、テンション上げない咲夜も悪いと思うけどな」
結局ローテンションのまま撮影を進める咲夜に、律の機嫌はますます悪くなっていく。この主人公、自分が興味ないキャラクターは攻略しない主義らしい。とことん夢小説に向いていない主人公である。
「……なあ、律」
「何だよ」
もはやフラグバキバキの律ルートだが、ここで咲夜が思いがけない言葉を発することで、一握りの希望が見えてくることになる。
「髪下ろさないのか?」
「は? 何で?」
何の脈絡もなく自分の髪型に注文を付けてきた咲夜にきょとんとする律。
「下ろした方が可愛いと思うんだけどなぁ」
「……な、何言ってるんだよ、急に」
「あ、動揺した」
律は咲夜から目をそらす。あまり容姿を褒められることがない律だから、いざ男性に可愛いとか言われると非常に弱いのだ。
「いや、この前のクリスマスんとき髪下ろしてただろ。俺、結構好きだぞ、あの髪型」
「な、なななな……!」
「あ、沸騰した」
「りっちゃん顔真っ赤?」
そして突然の告白を経て、ついに律の顔は熟した林檎のように真っ赤に染まった。口を意味もなくぱくぱくさせて動揺している姿は、恋に恋する女の子そのもので実に可愛らしかった。
「い、いきなりそういうこと言うなーー!!」
律は照れ隠しにドラムをバカスカ叩き始める。分かりやすすぎて全く照れ隠しになっていないのだが、そんなことを気にしていられるほど本人に余裕はなかった。
「凄いわ、りっちゃんのスティック捌き!」
「ど、どうした律、急にプロ並の演奏を始めたぞ!?」
「わかりやすいやつ……」
相変わらず朴念仁な咲夜は律の異変の原因に気付くことはなかったが、普段の数倍いい演奏をする律を見てこれはチャンスだと、とりあえず律の体力が切れるまでカメラを回し続けた。


Scene3.琴吹紬
「次は紬だな」
「よろしくお願いします!」
咲夜が構えたカメラの下からフェードインしてくるムギ。まるで数十分前の光景を繰り返しているようだ。といってもエンドレスなんたらではない。
「うお!? まさかの唯と同じ登場の仕方! 紬もなかなか軽音部に毒されてきたな……」
「どーいう意味だ」
「どーゆー意味だー!」
「そのままの意味だ」
ムギを毒した元凶の二人が声を揃えて反応してくるが、咲夜はそれを軽くあしらう。
「えっと、これからどうすればいいですか?」
「あー、そうだな……。まあ、フリップ持ってポーズとって、キーボード弾いてくれとしか……」
「何か面白いことはしなくていいですか!?」
食い気味で迫ってくるムギにたじろぐ咲夜。前者二人がなかなか面白いボケをかましてくれたので、自分も何かやりたいと熱くなっているのだろう。そういうところはムギらしいかもしれない。
「な、なんか今日はやけに積極的だな……。面白いことって、例えばどんなのだ?」
「マンボウとk」
『絶対やらなくていい!』
咲夜どころかその場にいる全員に全力で否定され、ムギはおろおろしている。おそらく理由が分かっていないのだろう。
「そ、そうですか?」
「ああ、紬にはこの軽音部の良識人の方でいてほしいんだ」
「どーいう意味だ」
「どーゆー意味だー!」
「そのままの意味だ!」
良識人じゃない方の二人が声を揃えて反応してくると、咲夜はそれをちょっと強い口調であしらう。さすがに天丼は面倒くさかったらしい。
余談だが、この後結局ムギの意向を尊重してマンボウのカットが使用されることとなる。ただそれも一瞬のカットでしかも途中で止められているという中途半端なものだが。因みにムギのシーンだけやけに短いのは……察してほしい。そして全国のムギファンの皆様に心からお詫び申し上げます。


Scene4.中野梓
「よし、梓撮るぞ」
「はい」
あずにゃんの撮影会ということでちょっとテンションの上がる咲夜……もとい、作者。さて、何をしてやろうか……と、いかんいかん、心の声が漏れてしまった。
「梓はやっぱり水槽の前で撮った方がいいかな。トンちゃん映るし」
「“私=トンちゃん”のイメージってそんなに定着してるんですか……」
アニメ版二期の第二話で突如登場したトンちゃん。今ではすっかり準レギュラーの座を獲得し、軽音部のマスコットキャラクターとして欠かせない存在にまで成長した。文化祭で発表する新曲の歌詞案にトンちゃんのことを書くあたり、梓もなかなかトンちゃんにご執心なようだ。
「まあ、そこまででもないけど一応な。てか梓、ネコミミ付けないのか?」
「付けませんよ!」
「“梓=ネコミミ”のイメージはもはや世界共通の認識だというのに……」
激しく同意。“梓=トンちゃん”の図式は成立しなくても、“梓=ネコミミ”の図式は揺るぎなく成立するのである。
「どこの世界の認識ですか!? 嫌ですよ、こんな大勢の人に見られるビデオでネコミミなんて……」
最近はネコミミを付けることにほとんど抵抗がなくなってきた梓だが、やはり見知らぬ人にネコミミ姿を見られるのは恥ずかしいらしい。そんな梓の背後に、ゆっくりと忍び寄る魔の手が……。
「えいっ!」
「にゃっ!?」
唯にネコミミを被せられ、変な悲鳴を上げる梓。唯選手、ナイスアシストです!
「おお、唯よくやった! さあ梓、そのままむったんを華麗に弾いて見せ」
「ません!」
『えー……』
失望と軽蔑の眼差しで音楽室にいる全員が梓を見つめる。そりゃあもう、ギー太やエリザベス、果てはむったんまで見つめている。
「なんで満場一致でブーイングなんですか! 真面目にやらないと今年も新入生入って来ないですよ!?」
そんな先輩たち(+楽器)の態度を不真面目だと捉えたのか、梓は一人憤慨している。だが、何も先輩たちはふざけているわけではない。梓は大きな勘違いをしているのだ。
「わかってるよ。だからこそ梓のネコミミ姿が必要なんじゃないか」
「そうだぞ梓。梓の可愛さに釣られて入部したいと申し出る男子高校生が一体何匹いることか……」
「匹はやめろ匹は」
「『あずにゃん先輩! 俺にギターを手取り足取り教えてくださいッス!』」
「青春ね?」
「もの凄くどす黒い青色な気がするのは私だけか?」
「あずにゃん先輩……」
「いや、梓も照れるなよ! あと反応するところ違うだろ!」
そう、梓がネコミミを装着することによって可愛さが百倍ほど増し、それによって入部希望者が増えるだろうという綿密に計算された末の行動だったのだ。決してネコミミが見たいがために後付けした理由ではない。あと澪さん、さっきから軽快なツッコミ飛ばしまくりです。
「な、梓が今ここでネコミミを装着してビデオを撮るのは可愛い後輩のためなんだよ。だからいいだろ?」
「はい……」
「洗脳された!」
説明しよう、梓は先輩という言葉にめっぽう弱いのだ。
「………………はっ、私は一体何を!」
「元に戻った!」
しかし、ネコミミを付けたくない思いがよほど強かったのか、はたまた俺のバトルフェイズがターンエンドしてしまったのか、梓の洗脳はいとも簡単に解けてしまった。
「や、やっぱりいやです! 普通に弾きたいです!」
「くっ、あと少しだったのに! 洗脳が解けてしまったか……」
「その台詞、どう聞いても悪役のだよな」
梓がネコミミを付けてくれるなら、咲夜は悪にでもなるのだ。
「……仕方ない、普通に撮るからスタンバってくれ」
咲夜その他諸々の洗脳も虚しくネコミミの装着を拒否した梓の撮影会は、結局無難な感じでまとまった。……ごめんなさい、熱意はあったんですが、作者の力量が足りなかったせいです。


Scene5.秋山澪
「ラストは澪だな」
「わ、私は演奏してるところだけでいいぞ」
「えー、何でだよ」
澪の発言に不満を漏らす律。
「だ、だって、ネコミミ付けてポーズなんて恥ずかしくて出来るか!」
「いや、ネコミミは私だけですよ」
「緊張して頭が回ってないみたいね……」
「うーん……」
人前に出て目立つことが得意ではない澪。高校へ入学して二年半が経った今でも、人見知りの症状はなかなか改善されていないようだ。
そんな澪の様子を見て、どうにか出来ないものかと頭を働かせ……咲夜は一つの案を思い付いた。
「よし、じゃあ澪が演奏してる間に誰かがフリップ持って紹介する、みたいな感じでいくか。それならいいだろ?」
「う、うん。まあそれなら……」
「よし、じゃあ撮るぞー」
澪から了承を得たので咲夜の案を採用することにし、とりあえずそれに沿って一通り撮ってみた。しかし……。
「うーん……」
「どうした、律?」
「いや、いまいち面白くないなー、と思って」
確かに、撮った内容はベースを弾いている澪の前に律とムギが現れてフリップを出すという実に味気ないものだった。
「そうか? まあ確かにベース弾いてるだけだが……面白さを求める必要もないだろ」
「そんな考えじゃ駄目だ! 私たちは一人でも多くの部員をゲットしなきゃいけないんだぞ!」
テーブルをバン!と力強く叩き熱弁を奮う、いつになくやる気な律。テーブルを叩いたあと「いたたた……」とか言わなければ非常にカッコいいのだが、そこは突っ込まないであげておこう。
「……ともかく、そのためには澪の力が必要なんだよ!」
「な、なんで私なんだよ?」
「そりゃあ、軽音部で澪が一番人気あるからだよ」
「そ、そんなこと……」
「確かに、ファンクラブがあるくらいですもんね」
「澪ちゃん可愛いもの?」
「そうだね?」
うんうん、と皆で頷いて納得する。必死で否定しようとする澪だが、数の暴力に負けもじもじと居心地悪そうに体を揺すっている。
「そう、そこなんだよ!」
再び熱弁を奮う律。前の失敗を学習してテーブルは叩かない。
「今のPVじゃ澪の可愛さを十分に生かしきれていない!」
「いつの間にPVになったんですか」
こんなにスペックの高い女子高生が自分たちでビデオ撮影ですよ? もちろん、最初からです。
「じゃあどうするんだ? 澪の可愛さを生かすって……はっ、まさか!?」
そこまで言って何かに気が付いた様子の咲夜。先ほどまでの冴えない表情が、一瞬で希望に満ちてくる。
「ふふふ、そのまさかだよ咲夜君」
「まさかそんなことを考えるとは、お主も悪よのぉ……」
「いやいや、咲夜様には敵いませんよ、へっへっへ」
深い会話はないが、この余裕な感じからしてお互いに考えていることは同じなのだろう。しかしこの二人、ノリノリである。
「と、いうわけで……」
「ああ」
怪しい目つきと手つきでじわじわと澪に近づいていく咲夜と律。その迫力に気圧され、澪はじりじりと壁際に追い詰められていく。
「な、なんだよ……」
澪の体が壁にトンと触れる。それを合図に、二人は澪へ飛びかかり……!
「確保ーーーーーーーっ!!」
「イエッサー!」
「キャーーーーーーッ!?」
いつぞやの梓よろしく、澪の身柄は確保されました。

咲夜と律に確保され別室に移された澪は、律の手によって立派なメイド様へと変身を遂げてた。
「ううううう…………」
『萌え萌えきゅんっ!』
半泣きになりながら両腕で自分の体を抱き、メイド姿をなんとか隠そうと奮闘している澪。そんな姿も萌え要素の一つとなって、音楽室にいる全員が懐かしの萌え萌えキュン状態になっている。
その後メイドコスでベースを弾いている姿を存分に撮影された澪は、精根尽き果てた顔で地面にへなへなと倒れこんだ。
「うう、もうお嫁に行けない……」
「大丈夫だよ、俺がもらってやるから」
「さくやぁ……」
澪の頭をぽんぽんと叩いてさらりと爆弾発言をする咲夜に抱きついて甘える澪。その光景を生温かく見守っている他のメンバーは一様に、
『(バカップル……)』
と心の中で呟いたそうだ。


個人撮影が終わったあとビデオの概要について突き詰めていくと、やはり軽音部なのだから音楽に合わせて紹介していくのがいいだろうという結論に落ち着いた。そしてその音楽は、ムギが持ってきたとあるガールズバンドの曲にあっさりと決まった。咲夜ですら名前くらいしか聞いたことのないマイナーバンドの曲だったのでムギが知っていたことにみんな驚いていたが、研究熱心なムギのことだ。放課後ティータイムの曲を作るに当たって色々なバンドの曲を聴き比べたりしていたのだろう。
ともかく楽曲はトントン拍子に決定したが、それだけではインパクトが足りないとまたも律が吠え出した。熱心なのはいいことだが、正直勘弁してほしいと咲夜や澪を筆頭に内心思っていた。
「じゃあどうすればいいんだ? 今度は水着で撮影でもするのか」
投げやりな態度で咲夜が茶化す。それはそれでありだと……いや、何でもありません。
「ふふふ……何を言っているんだね咲夜君」
再び笑いを浮かべる律。しかしその顔はあくどい笑みではなく、つまらないギャグをかました咲夜を嘲る笑みだった。
「そこまで言うってことは何か名案があるんだよな? 言ってみろよ」
その律の態度にむっとした咲夜は、噛みつくように問いただした。
「私たちは軽音部だぜ?」
咲夜の強気な詰問にも臆することなく、律は口を大きく開き、そして言う。
「――演奏するしかないじゃないか」



♪延々続行 ルララ Miracle Sing Time――
「しかし、よくこれだけのギャラリーを集められたよな……」
楽器の爆音と黄色い歓声が飛び交う雑踏の中で、俺はカメラを回しながら一人呟いた。
♪歌って 歌って 愛伝える最強手段――
「おっと……」
携帯をマイク代わりにして歌う唯が音楽に合わせて回る可愛らしい姿を逃さぬよう、俺は意識をカメラへと戻した。

「演奏……って、この曲をか!?」
最初は何の冗談かと思った。
「それ以外に何があるんだよ?」
受験勉強に、文化祭の準備に忙しいのに、これ以上練習する曲を増やすなんて。しかも市販の楽譜がない曲を。
「……覚悟はあるんだろうな?」
俺は五人の演奏者の顔を一人一人見つめ、低い声で静かに告げる。しかしわざわざ問いただすまでもないことは重々承知していた。伊達に三年間一緒に過ごしてきたわけじゃないんだ。
それから練習の日々が始まった。終業式が終わり夏休みに突入した俺たちは毎日音楽室に集まり、朝から晩まで、時には勉強を教え合いながら、時にはお茶を飲みながら、二週間みっちり演奏の練習に費やした。本当に“時には”の頻度だったのかは……まあ察してくれ。
そんな特訓の成果もあり、みんなの演奏はなんとか人に見せられるレベルにまで到達した。ひとまず第一関門はクリアーである。
しかし次にそびえる第二関門、こいつがまた某筋肉番組のそりたつ壁くらい曲者だった……と思っていたのだが、実は案外簡単に突破してしまった。
その関門とは「観客集め」。俺たちの頭には、放課後ティータイムの演奏に合わせて客が腕を振り上げたり踊ったりしている映像が描かれていた。そのため、エキストラ的存在を少なくとも十五人くらいは集める必要があったのだ。
俺たちは音楽室で出来る程度のミニライブを計画し、ポスターや口コミで告知・宣伝した。学校に来る必要のない夏休み、客が集まらないのは目に見えていた。俺たちは一人でも多くの客が来てくれるようにと、神にも祈る思いで当日を待った。
そして来る八月上旬、放課後ティータイム・夏休み特別ミニライブは開催された。

「凄いな。軽く四十人は超えてるぞ」
十五人を超えれば上出来だったミニライブ、蓋を開けてみれば目標の三倍近くを集客する大盛況を見せていた。音楽室の前半分が完全にステージと観客で埋まり、気分はまるで小さなライブハウスだ。三年間の活動を通して「放課後ティータイム」の名もそこそこ校内に知れ渡ったと誇ってもよいだろう。
「あいつらも、いい表情してるな……」
レンズ越しに演奏している仲間を見つめる。みんな笑顔で気持ちよさそうだ。恥ずかしがり屋の澪でさえ、撮影されていることなどすっかり忘れライブを楽しんでいるようだった。
ここまでのライブを開催することが出来て、特訓を指導した俺としてはとても鼻が高いし、これ以上嬉しいことはない。しかし同時に、俺は少しだけ寂しさを感じていた。今回徹底して裏方に回り尽力した俺だが、それには理由があった。もちろん冒頭で述べたのも理由の一つではあるが、それ以上に「放課後ティータイム」を女の子五人のバンドとして記録に残してやりたかったのだ。元々俺は入部した時から傍観者Fとか名乗っていた異分子だし、きっと俺がいなくても放課後ティータイムは成り立つ。俺と彼女らの間には、どんなに仲良くなろうとも割ることの出来ない、男女の差異が創り出す透明な仕切り板が挟まっているように感じた。それはこのライブシーンを撮る前に撮ったあるシーンを見ても明白だった。
このライブシーンはビデオで使用する他の全てのシーンを撮り終えてから撮っているのだが、この曲の最後の歌詞に合わせたシーンを撮るのが、ある意味一番見ていて辛かった。誰が考えたのか、女の子が女の子に抱きつくというよく分からないカットを撮ることになったのだ。女の子同士が抱き合っている姿をカメラに収めるというのは、それはもう色々と怪しい妄想を掻き立てられるもので、年頃の男子高校生にとってはある意味拷問ともいえる所業なのだ。そして俺はこの時に、彼女たちとの壁をはっきり認識してしまったのである。
「……と、そんなこと考えてる場合じゃないな。集中、集中……」
あれこれ考えているうちに曲は終了してしまっていた。これ以上撮る必要はないのだが、せっかくの機会だしカメラは回し続ける。唯のMCが少し入ったあと、律のカウントで『ぴゅあぴゅあハート』の演奏が始まった。

「終わったな……」
観客の撤収を終えた後、俺たちはいつものようにテーブルを囲み、紬が用意したお茶とお菓子でティータイムを楽しんでいた。自分が演奏したわけでもないのに、俺の心は非常に充足感に満ちている。俺でさえこれなのだから、実際に演奏していた彼女たちはどれだけ満足しているのか、それは推して知るべしである。
「まだ終わってないよな、みんな?」
すっかり完全燃焼モードだった俺に、律がよく分からない声を掛ける。その声にニヤニヤしている五人……訂正、ニヤニヤしている四人+もじもじしている一人(澪)。もの凄く嫌な予感がするのはおそらく気のせいではないだろう。
「な、なんだよ」
俺は反射的にイスから立ち上がり、音楽室の扉の方へと逃げていった。しかしそこにはいつ移動したのか紬が立っており、お嬢様スマイルを浮かべながら「逃がしませんよ♪」という含みを持たせた視線で俺を見ていた。
逃げ道を塞がれた俺を取り囲むように、唯、澪、律、梓の四人がじりじりと近づいてくる。俺の脳裏には先日撮った“あのシーン”が浮かんでいた。しかし、何かが引っ掛かる。あれ、実は俺、もっと前に“同じようなこと”を体験していたんじゃ……。
「……! 思い出した! あれは一年の……」
俺が“あの日”のことを思い出したのと同時、五人は一斉に俺へ向かってダイブしてきた。女の子特有の柔らかい感触と甘い香りが俺を包み込むが、俺はもはやあの時のヘタレな俺ではない。これくらいで動揺すると思ったら大間違いだ!
「そう、俺は三年間の学生生活を経て、心も体も成長したんだ!」
「い、いきなりどうした?」
突然大声で意味不明なことを叫び出した俺にびくりとする澪。そう、俺は澪のおかげで心も体も……これ以上は本編に関係ないから自主規制しておこう。
「つーか、何でいきなり抱きついてくるんだよ」
俺とお前らの間には越えられない仕切りがある。それは嫌というほど分かっているはずなのに。何でお前らは、俺を傍観者の立場から引きずり降ろそうとするんだよ?
俺が投げかけたその問いに答えるように、澪が俺の腕にしがみつきながら頬を赤く染めて、でも真っすぐに俺の瞳を見つめて言う。
「さ、さくやだって『放課後ティータイム』のメンバーだろ!?」
「そうだぞー。一人だけ遠くで見てるだけなんて許さないからな!」
澪の言葉に律が続く。他の三人も言葉は発しないけれど、思っていることは同じなようだ。
「俺も、放課後ティータイムの……」
澪の言葉は俺の心に痛いほど突き刺さった。俺を放課後ティータイムのメンバーとして認めてくれている。それは凄く嬉しいことなのだが、同時に俺は今までそう思ってくれていた彼女たちを裏切っていたのではないかという自責の念に駆られる。
「はは」
「どうした、咲夜?」
自嘲と嬉々の混在する俺の笑い声を聞いて、澪が首を傾げる。
「いや、可愛くて気立てのいい女の子に囲まれて俺は幸せ者だな、と思ってな」
彼女たちの強い想いに、ついそんなことを口走ってしまう。こんな恥ずかしい台詞を口にするなんて……
『柄にもない、かな?』
「は?」
俺が今まさに言わんとしていた台詞を皆に言われ、俺はきょとんとしてしまう。そんな俺の間抜け面を、五人の少女はしてやったりといった顔で見ている。
「三年間一緒にいて気付かないとでも思ったか?」
「二年間でも気付きますよ?」
「私でも気付くよ??」
「唯ちゃん、それは自慢になってないわよ?」
「ふふ、咲夜の口ぐせ、だもんな?」
「…………」
俺と彼女たちの間に仕切りがあると思ってたのは、やはり自分だけだったらしい。いや、もしくは彼女たちがハンマーか何かで仕切りを叩き割ったのかもしれない。そう考えると、今の今まで疎外感がどうたらで悩んでいた俺はただの馬鹿だったことになる。
「まあ、馬鹿でもいいか」
こんなにも俺のことを理解し、信頼してくれる女の子が身近にいる。それだけで、人生勝ち組なんじゃないか。そんな風に思えた。
「よし、今日はライブ成功祝いに美味いもんでも食べに行くか! 俺のおごりで!」
「お、急にどうした? 柄でもない」
「いや、そう使うと俺が守銭奴みたいじゃねえか!」
「違うんですか?」
「あずにゃん、言うようになったね?」
「二年間一緒にいれば、先輩のことはお見通しですよ!」
「素敵だわ?」
「何が素敵なのかよく分からんが、とにかく任せとけ!」
「だ、大丈夫か、咲夜? 今月の生活費とか、危ないんじゃないか?」
「あー……まあ、何とかなる、だろ……。ピンチの時は澪、任せた!」
「へ、何を?」
「俺のために食事を作ってくれるとありがたい」
「な、ななななななな…………!?」
「お、プロポーズか??」
「ひゅ?ひゅ?!」
「素敵だわ!」
「ムギ先輩、顔がキラキラしてる……」
「お、お前ら茶化すな! さ、咲夜も違うってちゃんと……」
「ん、俺は本気だけど?」
「なあっ…………!!」
そんな馬鹿騒ぎをしながら、俺たちは音楽室を後にする。こんな風にみんなで笑っていられるのもあと半年だけだと思うと、少し胸の奥が苦しくなったりもする。だからといって落ち込んでいくのは俺の柄じゃない。月並な言葉だけど、今しかできないことをしよう。そして、今しか作れない思い出をたくさん作ろう。廊下を笑いながら走っていく同じバンドのメンバーを見ながら、俺は心に誓った。


大好き 大好き 大好きをありがとう
歌うよ 歌うよ 心こめて今日も歌うよ
大好き 大好き 大好きをありがとう
歌うよ 歌うよ 愛をこめてずっと歌うよ

『Utauyo!!MIRACLE ‐ 放課後ティータイム』


(終)





【あとがき】
過去作品との繋がりを結構混ぜ込んだので、なんか最終回見たいになっちゃいました(笑)。むしろこれを最後に持ってきた方がよかったんじゃないかって気はしますが、かなりお待たせしてしまったので、自主的に書いたやつですがリクSSが書き終わるまでの間に合わせ程度にお読みいただければ幸いです。
SSはかなり久々に書いたので完全に書き方を忘れていました。ただ、もちろん何もしていなかったわけではありません。ちゃんと友人の友人(マイミクのマイミクみたいな)から貰ったオオカミさんを読んで勉強していました(笑)。そのため、若干「だ・である体」と「です・ます体」が混ざっていますが、それはおそらく「○○○パニック!」シリーズでも同じだったと思われるので見逃して下さい。ギャグを書こうとするとどうしてもです・ます体を使いたくなっちゃうんですよね。そっちの方が表現の幅も広がるし。
そしてこの長さ。間違いなく僕が(オリジナルも含め)今まで書いたSSの中で最長です。後書き抜いて約13000文字ですから、400字詰め原稿用紙で32枚分くらいですか。まあ長いからいいってわけでもないですが、今回の作品は自分では割と気に入っています。やはりまずは自分で自分の作品を気に入らないと駄目ですよね。そういう点では、前々回の梓短編はちょっと微妙だったかなと思っています。前回の唯短編は書きたいことが書けて満足していますが。
長くなるのもあれですからこの辺りで終わりにします。新たな追加情報はほとんどないですが、一応SSのことについても少し触れているので、今夜更新する記事もお読みいただければ嬉しいかなと思っています。では!

テーマ : けいおん!
ジャンル : アニメ・コミック

『けいおん!』リクエストSS・唯短編「いつまでも、君と」

春の冷たい風が、咲き始めたばかりの桜の花びらを散らしていく。
「卒業式、終わっちゃったね」
「そうだな」
靴に当たった小石がひとつ、コツリと音を立てて地面を転がっていく。
「澪と梓は大泣きしてたな。律も珍しく泣いてたし」
「私は泣かなかったよ。えっへん!」
「つまり、心がくすんだ人間ってことだよな?」
「違うもん! 必死に我慢してたんだもん!」
「泣きそうだったんじゃねーか」
昨晩降り続いた雨が地面に作った水溜りの中で、一匹の蛙がゲコゲコと鳴いている。
「紬は泣いてなかったな。まああいつのことだから、我慢してたんだとは思うが」
「私にはくすんだ人間とか言ったのに!?」
蛙が水溜りの中から勢いよく飛び出す。その衝撃で飛散した水しぶきが一度地面の色を黒く染めるが、すぐに吸収されて元の色に戻る。
「三年間か……。長いようで、あっという間だったな」
「最後の一年は受験勉強で忙しかったからね」
「その受験勉強をちゃんとしていたら、誰かさんは今ごろもっといい大学に入れてたんだろうな?」
「全くだよ、りっちゃんもっと頑張ればよかったのに!」
「お前のことだよ!」
空一面に広がる白い雲のすき間から、太陽が一瞬だけちらりと顔を出す。
「ねえねえ、私とさっくんが初めて出逢った時のこと、覚えてる?」
「あー、あれはびっくりしたな」
「えへへ、さっくん照れてたよね?」
「いや、照れるってか、普通抱きつくか? 初対面のやつに」
「だって、なんか頼れそうな人だったから、つい」
「いきなり音楽室の前で抱きついてきて『一緒に断ってください!』だもんな。なんの勧誘かと思ったよ」
茶色の毛並みをした猫が、スピードの出し過ぎて転びそうになりながら、右から左へと横切る。
「まあでも、結果的によかったんだけどな」
「うんうん、そうでしょ。私のおかげで軽音部に入ることになったんだから!」
「まあ、否定はしない」
「さっくんがいなかったら、きっと軽音部でこんなにいっぱいの想い出は出来なかったと思うよ?」
「俺も、唯たちに出会えて本当によかったと思う。確かに、女子だらけの合宿に男一人で参加するのはなかなか勇気がいったけどな」
「楽しかったね?。海で泳いで、ビーチバレーして、スイカ割って、花火やって……」
「お前の頭には練習の二文字はないのか?」
「ちゃんと夜中にこっそり練習したもん!」
「それとこれとは話が別だ!」
空に浮かぶ白い雲の色が、少しずつ灰色に染まっていく。
「でも、ホントに楽しかったね?♪ 夏祭りに行って盆踊り踊ったりして」
「うんうん」
「修学旅行で、夜中にこっそり部屋ぬけだしたりして」
「そうだな」
「クリスマスには……、みんなで、パーティー、やっ、てっ……!」
「……唯?」
「ぶんかさいで、すてーじで、みんなでそろって、えんそうっ……!!」
軒先に生えた樹木の葉の先端から、大粒の雫が一滴、零れ落ちる。
「おいおい、泣くなよ……」
「ひぐっ……、だって、今日で離ればなれになっちゃうんだよ? ずっと一緒だったみんなと、さっくんとも……!」
雫は一滴、また一滴と滴り落ちる。点はいつしか線となり、小さな滝を形成する。
「わたしっ、まだみんなと別れたくないよ! もっともっと、たくさん遊んで、たくさん演奏して、たくさん想い出作って、たくさん笑って過ごしたい!!」
「唯……」
滝の下には大きな池が作られる。そのほとりで羽を休めていた二羽の雲雀が、互いに身を寄せ合う。
「大丈夫、俺はそばにいるよ。いつまでも、ずっと、唯のそばに」
「ふえっ……さっくン――ッ!」
雲雀は愛を確かめるように嘴を重ねる。深く深く、永遠とも思えるほど長く、嘴をつつき合わせ、さえずり合う。
「相変わらず苦手なんだな、キス」
「うう……で、でも、結構慣れてきたんだよ?」
一羽の雲雀が空へと飛び立とうとするが、もう一羽が翼で前から押さえつけているため、身動きをとることが出来ない。
「最初にしたときは大変だったもんな?。顔中真っ赤にして」
「だ、だってあれはさっくんが強引にするから……」
「唯が可愛すぎるのがいけないんだろ?」
春の暖かい風が、咲き始めたばかりの桜の花びらを舞い散らしていく。
「キスは苦手なのに、抱きしめられるのは大好きだよな、唯」
「うん。さっくんに抱きしめられると安心するんだ?」
「擦り寄ってくるなよ、くすぐったいから」
「えへへ?」
すっかり白さを取り戻した雲が、地上へ季節外れのクリスマスプレゼントを届ける。
「うわあ、雪だ! さっくん、雪だよ!」
「……嘘だろ? だって今四月だぞ?」
「でも、ちゃんと冷たいよ? ……あ、そうだ!」
ガサガサと木の葉の擦れる音が染み渡る。何枚かの葉が地面に落ち、奥から新しい葉が姿を現す。
「これでもっとあったかいね♪」
「正直暑いんだが……まあいいか。それより準備いいな。マフラーなんて、もう使わないと思ってしまっちゃったぞ」
「なんだか雪が降りそうな予感がしたんだ?」
「嘘だろ?」
「うん、嘘だよ。本当は鞄から出すの忘れてただけ」
新しい葉も、風に靡いてさわさわと音を立てる。
「やっぱりそうか。そうだよな、唯がそんな用意周到なはずないよな」
「む、さっくん、さっきから私のこと馬鹿にしてるでしょ?」
「だって本当のことだろ?」
「むむむ」
空から降り注ぐ雪の結晶が、頭の上で小さな髪飾りを作る。それはやがて体温で溶かされ、頭から熱を奪っていく。
「ねえ、さっくん」
「どうした?」
「あのね……」

頭悪くて。
自分勝手で。
お料理出来なくて。
ギター上手く弾けなくて。

「さっくんみたいなかっこよくて何でも出来ちゃう男の子となんか全然釣り合わない私だけど」

それでも、許されるのなら。

「これからも、ずっと――」


好きでいてもいいですか? この先もずっとね
泣いて 笑って かっこわるいところも全部
愛おしい日々でしょう 君と描きながら
今日も 明日も この胸に宿る光に 触れていたいよ

Lyrics by“Shining on‐Megumi Nakajima”


触れた唇が熱を持って、愛し合う二人の意識を、いつまでも溶かしていく――。


(終)





【あとがき】

意味もなく七夕の日に更新。別に織姫や彦星は出てきません。
分量は少ないですが、自分的には前作より満足のいく作品が書けたと思っています。色々とテーマはあるのですが、それが伝わったのなら成功ですね。伝わらなかったのなら精進します。
今回の話は、中島愛さんのアルバム『I love you』を聴いていたときに思いつきました。特に、本編で引用した『Shining on』がお気に入りでして、

「好きでいてもいいですか? この先もずっとね」

このフレーズにやられました。この台詞を唯が言っているところを想像すると、何かこみ上げるものがありませんか? 澪じゃ駄目なんです。唯だからこそ、この改まった台詞に、一層強い気持ちが込められるんです。
次回は澪の修学旅行話です。修学旅行といえば……妄想は尽きませんね(笑)。期待しないで待っていただきたく思います。ではノシ

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『けいおん!』リクエストSS・梓短編「カゼトメロント」

ぽかぽかと暖かかった小春日和もいつの間にか遠くへと行ってしまい、本格的に寒さが増してきた12月上旬のある日。放課後、教室の掃除を終えた私はギターの入った黒いケースを背負い、いつも通りに音楽室へと向かった。
「こんにちは?」
「あっ、あずにゃんだ?!」
「おお、梓来たか」
「よっ、梓」
「こんにちは、梓ちゃん」
木で出来た横開きの戸をガラガラと開けて音楽室へ入ると、四つの声が中から私を迎えた。ギターの唯先輩、ベースの澪先輩、ドラムの律先輩、キーボードのムギ先輩。四人は相変わらず練習もしないで、室内に置かれた大きなテーブルの上にティーセットを広げ、お茶会に花を咲かせていた。
「また練習してないんですか? いい加減ちゃんと練習してくださ……」
いい加減言い飽きた文句の言葉を仕方なく発して先輩たちを諌めようとした私だったが、ふとこの空間に違和感を覚え途中で言葉を飲み込んでしまった。何だろう、この光景は見慣れているはずなのに、どこかいつもと違う気がする。例えばそう、何かが足りないような……。
「あ」
室内を入念に見回して、ようやく私はその違和感に気付いた。
「サク先輩はまだ来てないんですか?」
そう、女子たちがティータイムを楽しんでいる裏でBGMを奏でるようにギターを鳴らしているサク先輩が、今日に限ってこの場にいなかった。ほとんど毎日部活に来ている先輩だったから、つい今日もいるものだと錯覚してしまったらしい。
「あ、咲夜は今日学校来てないんだ」
「なんか風邪引いたらしいぞ?」
私の疑問に澪先輩と律先輩が続けて答えた。特に感情を込めるでもなく、淡々とした口調だった。
「風邪……ですか?」
そんな二人とは対照的に、私は内心かなり驚いていた。誰もが完璧超人と評する――もちろん私もその一人だ――サク先輩が風邪を引いて学校を休むという状況を、すぐに想像することができなかったからだ。
「だ、大丈夫なんですか? サク先輩がダウンする風邪って、相当重い風邪とかじゃ……」
「いや、サクだって人間なんだから風邪くらい引くだろ」
律先輩が珍しくまともなツッコミを入れた。普通なら律先輩の考えが正しいんだろうけど、あのサク先輩のことを思い浮かべると、やはり喉の奥に小骨が詰まっているような思いがした。
「そーだ! じゃあみんなでさっくんのお見舞いに行こうよ!」
もやもやした私の気持ちを払拭したのは、ケーキを幸せそうに頬張っていた唯先輩の一言だった。「それはいい考えね」と、カップに紅茶を注ぎながらムギ先輩が同調する。
「でも、あんまり大人数で行くと迷惑じゃないか? それに、咲夜の家って、その……」
「あー、確かに、サクの家ってあれだもんな……」
ちょっと気まずそうに澪先輩と律先輩が言葉を濁している。私にもなんとなく何を言いたいのかは伝わってきた。ムギ先輩も二人の意図を察したのか、ポットを抱えながら苦笑している。
「さっくんの家ってちっちゃいもんね?」
『(何の遠慮もなく言ったー! さすが天然!)』
またも唯先輩がズバッと核心に斬り込んだ。天然って恐ろしい、とその場にいた全員が思っただろう。でも、人が遠慮して言えないことを何の気兼ねもなく言えて、それなのに周囲に不快感を与えない唯先輩の不思議な特質は、ある意味持って生まれた才能なのかもしれない。
因みにサク先輩の家は八畳一間でキッチン・トイレ付きという、一人暮らしにしては十分かもしれないけれど、お世辞にも軽音部のメンバーが全員入って快適なほど広い間取りとは言えないものだった。
「でも、放っておくのも可哀想じゃないですか? もしかしたら一人じゃ動けないくらい重い風邪かもしれないし……」
「さっきから梓、随分サクのこと心配してるな?」
私のサク先輩を心配する態度をどう勘違いしたのか、律先輩がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて私のことを見てくる。
「べ、別にそんなことないです! 病気の人のことを心配するのは普通じゃないですか!」
「じゃあ、あずにゃんにお見舞いに行ってもらえばいいんじゃない?」
「えっ?」
「そうね、それがいいかもしれないわ」
「ち、ちょっと待ってください! 私一人で行くんですか!?」
「大丈夫だって。サクは風邪引いてるんだから、襲われたりはしないよ」
「そんな心配してません!!」
三度(みたび)、唯先輩の一言で話の方向が変わる。今度はムギ先輩だけじゃなく律先輩も乗ってきて、あっという間に私がサク先輩のお見舞いへ行く流れになってしまった。しかも律先輩は変なこと言い出すし。お、襲われるって……そんなこと考えてないもん!
「お、おそ、おそわれ……」
因みに澪先輩は律先輩の言葉に顔を真っ赤にして一人うろたえている。本当に純情なんだなぁ、澪先輩……。
「はぁ……。わかりました、行きますよ」
なんだか上手く丸めこまれた感じだけど、サク先輩が心配なのは本当だし、私は一人でお見舞いへ行くことに決めた。
「じゃあ、これお見舞いのフルーツよ。ちょっと重いけど、持てる?」
ムギ先輩から手渡されたのは、よく入院患者のお見舞いに行くときに持っていくような、バスケットに入ったフルーツ盛り合わせ。まるでこうなることを予期していたかのような準備のよさに、私はムギ先輩の底知れないポテンシャルを感じ取ったのだった。
「あ、ムギちゃん、これもそこに入れといて?♪」
私がムギ先輩に畏敬の念を表しているうちに、唯先輩が“何か”をフルーツバスケットに入れようとしていた。カチューシャのようなアーチを描いた黒い本体に、先が尖がった二つの突起が付いている。それはまるで……いや、むしろまさに……。
「ネコミミじゃないですか! そんなの入れないでください!!」
「え?、いいじゃん。きっと使う時が来るよ?」
「絶対に来ません!」
唯先輩の頭の中は一体どうなっているんだろう。私には一生かけても理解できそうになかった。
「あれ、でも梓って咲夜の家行ったことあったか?」
すっかり唯先輩のペースにはまってグダグダになりかけていた場を、澪先輩の鶴の一声が引き戻してくれた。さすが澪先輩です!
「あ、それなら大丈夫です。前に一度だけ行ったことありますから」
私は他意なく、本当に何気なくそう答えた。それなのに律先輩はまた何を勘違いしたのか、執拗に食い付いてくる。
「へ?、いつ行ったんだ? 確か私たちと一緒に行ったことはないはずだけど?」
「ぎ、ギターの調子が悪かったからちょっと見てもらっただけです! 別に変なことはしてません!」
「ん?? 私は別に“変なことした”なんて言ってないんだけどな?♪」
律先輩がドヤ顔で私を見つめてくる。う、もしかして自爆した……?
「そうか?。私たちの知らないところで、人知れず愛を育んでいたんだな、梓……」
「抜け駆けだよ、あずにゃん!」
「凄くいいと思うわ?♪」
「そ、そうなのか、梓?」
「だから違いますって!! もう……行ってきます!!」
律先輩の心象悪い言葉に、三者三様の反応を見せる先輩方。形成の圧倒的不利を感じた私はこれ以上音楽室にいても自分の首を絞めるだけだと思い、半ば逃げるように音楽室を飛び出した。ビシャン、と戸が閉まる音を背に、私は小走りで廊下を駆けていった。
「全く、からかいすぎだぞ、律」
「澪も乗ってただろうが! うーん、でもあの二人、結構いい感じだと思うんだけどなぁ……」
「ねーねームギちゃん、私たちのおやつは??」
「ケーキがあるわよ」
「わーい! 食べよ食べよ!」
「もう興味なくしたのか……」
「唯らしいな……」

***

「もう、先輩たちは誤解してますよ……!」
あれはまだ暑さが残る八月の終わり頃だった。文化祭を間近に控え、やっと軽音部の練習にも熱が入り始めた矢先、私のギターの調子が悪くなり音が上手く出なくなってしまった。本格的に壊れて音が出なくなったのが休日で、しかも行きつけの楽器屋さんがその日に限って休みだったので、一日でも練習を休むのが惜しい私は、ギターに詳しいサク先輩の家へお邪魔してギターを見てもらうことにしたのだった。その時以来先輩の家へは行ってないし、別にそのとき何かがあったわけでもない。ただ――まさかあんなにちゃんと直るとは思ってなかったけど――先輩にギターを直してもらって、ついでにギターの弾き方を教えてもらったくらいだ。普段音楽室でやっている練習とほとんど変わらないし、ましてや先輩が期待しているだろう“変なこと”は何もなかった。第一、サク先輩に限ってそんな間違いは犯さないはずだ。軽音部のなかではおそらく一番まともな人だし、万能なイメージから周りに「肉食系」な印象を与えている先輩だけど、実際は結構「草食系」な要素も持ち合わせている人だと思った。
そんなことを延々と考えているうちに、いつの間にか目の前にサク先輩が住んでいる貸家があった。学校からそこまで離れた場所でもないし、私の家と方向が一緒だったので体が覚えていたらしい。
「先輩、寝てるかな……?」
階段を上がり、チャイムを一回鳴らす。ピンポンと小気味よい音が辺りに響いた。
「はーい?」
チャイムを鳴らして数秒、家の中からサク先輩の声がした。どうやら起きていたみたいだ。私はちょっとほっとする。
「あ、先輩! 梓ですけど、お邪魔していいですか?」
「梓!?」
扉を一枚隔てていても鮮明に聞こえるくらい大きな声で先輩が叫んだ。なんだろう、私がお見舞いに来ることがそんなに驚くことなのかな?
「……悪いんだけど、帰ってくれないか?」
「えっ……な、何でですか!?」
予想だにしなかった先輩の言葉に、私は驚きを隠せなかった。もしかしたら嫌われているのしれない、そんな負の感情が私の心を支配する。
「いや、来てくれたのは嬉しいんだけど、もし風邪うつしたら嫌だからさ。だから……」
しかし、続く先輩の言葉に、私の心配は杞憂に終わった。どうやら、先輩は私の身を案じて帰れと言ってくれているらしい。こんな時まで他人のことを考えているのが、優しい先輩の良いところであり、同時に悪いところでもあると思う。
「そんなこと気にしないでください! 今は先輩が風邪引いてるんですから!」
「いや、でもなぁ……」
「それよりこんなところにずっといる方が風邪引いちゃいますよ。だから入れてください、サク先輩」
私はなんとか先輩に中へ入れてもらいたくて、わざと語調を和らげ、甘い響きのする声で先輩に語りかけた。何だか少し魔性の女になったみたいでドキドキした。
「……わかったよ。今開けるから」
そんなリトルデビルガールの誘惑に負けたのか、それとも私がどうやっても引き下がらないだろうと諦めたのか、とにかく先輩は私を中へ入れる気になってくれたようだ。一歩一歩扉に近付く足音が聞こえ、ガチャリと鍵が開く音がすると同時に、先輩が扉の影から姿を現す。
「おはよ、梓」
「おはようございます、先輩」
今日初めて見るサク先輩の顔。いつもの快活そうなイメージと照らし合わせると、それは見るからに体調が悪いひとのものだった。熱があるのか、顔が普段より赤みを増している。
「悪いな、わざわざ来てもらっちゃって」
「いいんです! 私が来たかったんですから!」
お邪魔します、と小さく呟いて玄関へ上がる。先輩の靴の隣に自分の靴を並べて立ち上がり、短い廊下を先輩の後に付いて歩いていく。
「大丈夫……じゃなさそうですね」
「あー、咳は出ないんだけど、熱が凄くてな。歩いてるとこう、ふらっとして倒れそうに……」
と、突然サク先輩の体がぐらっと横に傾いた。
「せ、せんぱいっ!?」
私は慌てて先輩の脇に回り込み、そのまま通路の壁にぶつかりそうになる先輩の体を渾身の力で押し戻した。あ、危なかった……。
「わ、悪い……」
私に体を支えられながら、力なくお礼を言う先輩。腕を離したらまた倒れてしまいそうだったので、私は先輩の腕を取って部屋の中へと先導していった。
「先輩は寝ててください。私が色々やりますから」
「ああ、そうさせてもらうよ……」
部屋に入るなり、先輩は敷いてあった布団にばたりと倒れ込む。私がその上から毛布をかけ終わったころには、既にすやすやと寝息を立てて眠っていた。
「やっぱり、来てよかったなぁ……」
こんな状態の先輩を一人にしておいたらどうなっていたかわからない。お見舞いに行こうと言い出した唯先輩に感謝しつつ、私は台所へと向かった。

とりあえず看病といったらおかゆという貧困なイメージが浮かび上がるもので。幸いお米は冷蔵庫の横にあったので、それを使わせてもらうことにした。
「えっと……、とりあえずネギと卵を入れておけばいいのかな……?」
戸棚から鍋を引っ張り出して、つたない手つきで一つ一つの工程をこなしていく。料理はあまり得意じゃないけど、病気の先輩のためだと思って頑張った。その甲斐あってか、なんとか見た目はそれらしいものに仕上がった。味の保証は出来ないけど、変なことはしてないから多分大丈夫……だと、思う。
「ん……」
おかゆを器に盛り付けて部屋へ戻ると、ちょうど先輩が目を覚ましたところだった。仰向けになっていて私の姿は見えないはずだから、足音で私が来たと分かったのだろう。
「梓……?」
「体調はどうですか?」
熱に浮かされてか、意識がふわふわしている先輩。私はおかゆを持ったまま寝ている先輩の横に座る。
「あー、さっきよりは大分ましになったかな」
「よかったです。……あの、おかゆ作ってみたんですけど、食べますか?」
「ああ、うん。ちょうど腹減ってきたところなんだ」
先輩がゆっくりと体を起こし、私の手からお皿とスプーンを受け取った。
「あ、あの、あんまり上手く出来てなかったらすみません!」
「気にしないよ。てか、十分美味そうだし」
そう言って先輩はおかゆを口に運んだ。ゆっくりと、何度も咀嚼して、やがて飲み込んだおかゆは食道を通って胃の中に収まる。
「うん、美味い」
「よかった……」
先輩の言葉に、私はほっと胸を撫で下ろす。その間にも先輩は二、三口とおかゆを食べ進めていたが、急に手を止めて私の顔に視線を落とした。
「もういいんですか?」
「いや、そうじゃなくて」
私の目を見つめて、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべる先輩。その笑顔に普段の元気な先輩を垣間見た私は、安心感とともに不安感を覚える。そしてその不安は案の定、的中することとなった。
「食べさせてくれないかなー、って思って」
「食べさせ……って、な、何言ってるんですか、急に!?」
「いいだろ、病人なんだから?」
先輩は普段出さないような、ちょっと幼い感じの声でおねだりしてくる。それがどことなく可愛らしくて、不覚にもドキッとしてしまった。風邪を引いてても先輩には逆らえないのかな、と、心の中で苦笑した。
「う……わ、分かりましたから、そんな目で見ないでください!」
しぶしぶ先輩から皿とスプーンを受け取り、一口分すくって先輩の口元におかゆを持っていく。もちろん、“あの”お決まりの台詞とともに。
「あ、あーん……」
「あーん……。うん、さっきより美味くなった気がする」
「気のせいですよ……」
顔が沸騰したように熱い。きっと今、私の顔は先輩よりも赤くなっていることだろう。
先輩は満足そうな顔で私を見ている。本当は元気なんじゃないだろうか、この人は。看病疲れじゃなく、気疲れで倒れちゃうかもしれない……。

サク先輩がおかゆを食べ終わり、薬を飲んで少し元気になっていたので、しばらくの間は二人で他愛もない話をしていた。今日私がここに来ることになった経緯を説明すると、先輩は「ははは、唯らしいな」とおかしそうに笑った。私もそれにつられて笑ってしまった。お金がなくて買えないとかで暖房器具が一切ない部屋なのに、どこかストーブでも点けたような温かさが部屋の中に広がっていた。
「あ、そういえば。先輩、フルーツ食べますか?」
唯先輩の話をしていて、私はふとムギ先輩から手渡されたフルーツバスケットの存在を思い出した。さっき台所に持っていってそのまま置きっぱなしにしたから、つい忘れてしまっていたようだ。
「フルーツか……。まあそんなに腹は減ってないけど、健康に良さそうだし、戴こうかな」
先輩の返事に私は「わかりました」と返して、再び台所へと向かう。バスケットには実に多種多彩なフルーツが盛り合わせてある。私はその中から網目模様の入った大きい緑色の球体を取り出し、切るのにちょっと手間取りながらも一口サイズに切り分け、先輩の元へ持っていった。ついでにいつでも取りやすいようにとバスケットを先輩の枕元に置いておく。
「メロンなんて何年ぶりに食べるかな……。紬に感謝しないと」
「でもメロンって夏の果物ですよね? さすがムギ先輩……」
二人してムギ先輩の底がうかがえないお嬢様度合いに感嘆しつつ、切り分けたメロンを頬張る。季節外れにも関わらず、そのメロンは口の中に極上の甘みを残して溶けていく。こんなに美味しいメロンを食べたのは初めてかもしれない。やっぱり高級品なんだろうなぁ、と――きっと先輩も一緒に――心の中で呟いた。
「しかし、紬もたかが風邪でこんな豪勢なもの持ってこなくていいのに。リンゴだろ、オレンジだろ、マンゴーだろ……」
先輩が枕元に置いたバスケットの中を漁りだす。季節感を全く無視したそれは、まるで天からの贈り物のように思えた。
「ん……? これは……??」
先輩が何かを発見したようだ。珍しいフルーツでもあったのかな? まあ、これだけあればドリアンとか入っていてもおかしくないかもしれな……。
「へっ?」
突然、頭の上に何かが乗せられる感触がした。「スポン」とアニメのような効果音が鳴ってもおかしくないくらい、“それ”は鮮やかに私の頭にフィットした。
「ふふ、やっぱ似合うな」
「先輩、何したんですか!?」
「いや、梓を“あずにゃん”にしただけだけど?」
「な……!!」
とっさに手で頭をまさぐってみると、そこには確かに二本の“ネコミミ”が立っていた。そういえば、唯先輩がバスケットの中に入れてたんだっけ……。すっかり忘れてた……。
「これはあれか? 梓を食べちゃってもいいっていうメッセージと受け取っていいのかな?」
ニコニコと笑みを浮かべて先輩が私を鑑賞している。今さらながら、狭い室内に二人きり、しかも男の人の部屋にお邪魔しているというシチュエーションを意識してしまい、顔が熱くなってきた。

『大丈夫だって。サクは風邪引いてるんだから、襲われたりはしないよ』

頭の中で律先輩の言葉がリフレインする。そうだ、サク先輩は病人なんだから、そんな、襲う……なんてこと、出来るはずがない。第一、先輩がそんなことをするはずがない。だって、先輩はいつだって凛としていて、誰からも好かれるような、格好いい先輩だから。私が憧れる、大好きな先輩だから。
「梓……」
「きゃっ……!」
そんな私の理想を打ち壊すかの如く、先輩は私を、覆いかぶさるようにして抱きしめてきた。先輩の体重を受け止められなかった私は、そのまま布団の上へと押し倒される。
身体が反射的に固くなる。信じていた人に裏切られた悲しさと、このまま流されてもいいかなという気持ちが心の中で葛藤していた。
「はぁっ、はぁっ……」
「せ、せんぱい、ダメで…………先輩?」
私に覆いかぶさり息を荒げていた先輩に、これから身に起こるであろう事柄を想像し恐怖を覚えていた私だったが、どうも様子がおかしいことに気が付いた。見ると、先輩は頭を押さえて苦しそうにしている。もしかして、先輩……。
「……悪い、ちょっと熱が上がってきたみたいだ……」
先輩の予想通りの一言で、私の身体に張り詰めていた緊張が一気に解けていった。急に熱が上がって自分の体を支えられなくなっただけ。ただそれだけのことだったのに、勝手に変なことを想像して先輩を疑ってしまった自分に嫌気がさした。同時に、少しだけ残念だったなと思ってしまう自分もいて、そんな自分に気が付いてまた顔が熱くなった。
「大丈夫ですか? もう、ふざけすぎたんですよ……」
私は自分の小さな手で、先輩の大きな頭を優しくなでた。自分でもどうしてそんな行動を取ったのか分からないけど、風邪で苦しむ先輩を見ていたら、自然と手が動いてしまった。母性本能ってやつかもしれない。普段完璧な先輩だけに、こういう風に誰かに甘えているところを見るのは初めてだったから、私はみんなが知らない先輩を独占できたみたいで嬉しかった。
先輩は私を抱きしめたまま一言も発さない。どうやら眠ってしまったようだ。下手に動いて先輩を起こすのも忍びないと思った私は、先輩の熱すぎるくらいの温もりに包まれながら、そっと意識を夢の中へと手放した。


(終)



【あとがき】
どうも、ご無沙汰しております。所詮ブログ管理人の綺羅矢的です。
前回、けいおんSSのリクエストをまとめてから約一週間ぶりの更新となります。自分的にはかなり早く仕上がったんじゃないかと思います。もちろん、質的なことは別にしてですが。
自分で書いていて思ったんですが、盛り上がりが少ないですね。あと導入と本編の比率がおかしい。とりあえずコンセプトとしては「風邪」というベタなシチュエーションを書きたかっただけなので、ネタが少なく終わってしまいました。
久々に書きましたが、久々すぎて口調が分からないという(笑)。けいおんはおそらくSEEDの次辺りにキャラ把握しているはずなのに、これはまずい。ちょっと公式ガイドブックとか読み直してきます。
とりあえず僕の作品に共通して言えることは“なんか暗い”。というかローテンションなのかな? 明らかに地の文のせいだとは思うんですが、なかなか修正が利かないんですよね。
梓の話では必ず梓視点で書くという習慣が自分の中で慣例化されているんですが、そうすると地の文の文体に困る。咲夜なら完全にナレーション口調でも違和感ないんですけど、梓(というか女の子キャラ)だといまいちどういう口調で書けばいいか分からないという。でも、実際女の子視点からの方が書きやすいという複雑に絡み合うジレンマ。
次回作は唯ですが、もう構想は練ってあります。僕のSSはいつも実験なので、作風がかなり不安定になりますが、まあどうか付き合っていただきたいと思います。ではノシ

テーマ : けいおん!
ジャンル : アニメ・コミック

『けいおん!』夢小説風二次創作SS「another participator」

初作(無印)はこちら→
二作目(NX)はこちら→



2010/05/12(水) 澪シナリオ「雨に寄り添う」更新。
2010/05/12(水) 共通シナリオ「シンデレラ・パニック!」更新。



※これは漫画及びアニメ作品『けいおん!』のキャラクターと世界観を利用した「オリジナル男主人公と女性キャラクター」の絡みを中心とした短編SSです。男との絡みが嫌いな方、オリジナル設定を受け入れられない方、原作のイメージを崩されたくない方、及び百合しか認めない方は閲覧をご遠慮ください。





【設定】


※今回は大幅な設定変更があるので、必ずお読み下さい。


詳しい設定は【『けいおん!』夢小説風二次創作SS・今さらながらのキャラ設定】をお読み下さい。
※ただし、そちらはなるべく以下の【梓シナリオ「プリーズハグミー!」】をお読みになってからご覧ください。


大前提として「共学」設定。時間軸の基準は原作2巻(2年生編)。



◎オリジナル男主人公


神代 修二(カミシロ シュウジ)

桜が丘高校ニ年。身長168cm、体重60kg。男。4月22日生、牡牛座。B型。軽音楽部所属、パートはギター。

成績は悪い(唯並かそれより少し上程度)。スポーツは全体的に得意。ルックスは上の下?中。お調子者で、先陣を切って場を盛り上げるのが好き。ギターを始めたのは高校に入ってからで、腕前はもちろん梓より劣るが決して下手ではない。咲夜に比べればかなり人間味のあるキャラ。


―相互敬称―

唯→しゅーくん
澪→修二
律→修
紬→修さん
梓→修先輩

ALL←名前呼び捨て



藤川 咲夜(フジカワ サクヤ)

桜が丘高校二年。身長174cm、体重63kg。男。2月28日生、魚座。O型。軽音楽部所属、パートはギター。

成績優秀。スポーツ万能。ルックスは上の中。絶妙の明るさとクールさを持ち合わせていて、誰からも好かれるタイプ。さらに中一から始めたというギターの腕前も素晴らしいという、まさに生まれるべくして生まれた最強キャラ。特に澪との相性は抜群だと作者自身が思っている。

色々と事情があって6畳間(8畳間だったか?)の狭い部屋で一人暮らし。バイトをして生計を立てている。基本女性より優位に立つが、TPOに合わせてヘタレ全開にもなる、キャラ設定ブレブレな主人公である。


―相互敬称―

唯→さっくん
澪→咲夜
律→サク
紬→咲夜さん
梓→サク先輩

ALL←名前呼び捨て




※修二主シナリオでは咲夜が、咲夜主シナリオでは修二がそれぞれサブキャラクターに降格。立場は基本的に「主人公の友人」で、軽音部には所属していない。


その他、シナリオごとに何か特別な設定がある場合には、適宜記述していきます。





【作品一覧】


唯シナリオlove yui life
主:修二
◎追加シナリオlove mio life
主:咲夜

?ほのぼの。唯と中の人が、重なる。らぶ!

※修二と咲夜は共に軽音部所属


澪シナリオ雨に寄り添う
主:咲夜

?ファンタジー? ある雨の降る日に起こった、ちょっと不思議な物語。


律シナリオ「冬の日!-another story-(仮)」
主:(未定)


紬シナリオ「風をあつめて(仮)」
主:修二


梓シナリオプリーズハグミー!
主:修二

?甘。しゅーくん初お目見え。ぶっちゃけ咲夜とあまり変わらな……おっと、悪口はそこまでだ。


共通シナリオシンデレラ・パニック!
主:咲夜、修二

?ギャグ。シンデレラ役はもちろんあの方。


番外編「(ナイショ)」
主:咲夜、修二

テーマ : けいおん!
ジャンル : アニメ・コミック

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