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『けいおん!』二次創作SS:紬シナリオ「coffee break」

まずはこちらをお読みください→





小春日和も過ぎ去り、世間は俗に師と仰がれる存在がせわしなく走り回る月に突入した。

ある日の放課後、いつもと同じように部室へと繋がる廊下を歩いていたところ、突然窓を吹き抜ける風が強烈な冷気を纏って俺の体をつんざいた。

「寒っ! 誰だよ、開け放しにしたの……」

俺は社会道徳を弁えない、誰とも分からぬ無礼な奴に恨みを向けながら窓を閉め、早々にその場を立ち去った。


***


「おーっす、って、あれ?」

無駄に健康優良児を装い、部室の扉を勢いよく開いてみた。しかし目の前に広がる光景は俺の想像していたものと遥かにかけ離れていた。

例外なくぴたりと枠にはまっているはずの四枚のピースのうち、今日は三枚が欠けている。木製の椅子の上に落ち着いている残りの一枚――桜高軽音部キーボード担当の琴吹紬が俺に視線を合わせ、にっこりと微笑む。

「珍しいな。紬だけか?」

外界の空気を遮断するためしっかりと扉を閉め、部屋の一角を占める「ティースペース」へと足を踏み入れる。

「はい、今日はなんだかみんな用事があるらしくて」

上着をハンガーにかけながら紬の話に耳を傾ける。それによると、唯は期末考査で赤点だった教科の補習、律は消息不明、澪は消えた律の代わりに部長会議に出席しているらしい。消息不明て。

「サボリ以外の何物でもないな……」

コートを大仏に見立て、心の中で澪に手を合わせて拝む。どうもご愁傷様です。

「となると、今日の練習は中止だな」

二人では合わせ練習など出来るはずがない。それにドラムとベースならまだセッションが出来るが、ギターとキーボードではどう頭を働かせても代案は思いつかない。

「個人練習はしなくてもいいんですか?」

紬がもっともらしい意見を提案してくるが、俺は胸を張ってこう返してやった。

「五人いたって滅多にしないんだから、二人でやる意味もないだろ」

「それもそうですね」

俺も紬も軽く笑い流しているが、実際、部活動としてはかなり問題だろう。げ○しけんでさえ薄っぺらい本書いて売ったりしてるのに、この部活といえば練習量より食したスイーツ量の方が明らかに勝っている。

結果的にライブは成功しているから実害は出ていないものの、誰かやる気のある一年生でも入部しない限り、この現状は卒業まで続いていくことだろう。

「まあ、らしいといえばらしいんだが……」

経験者の俺がこんなやる気のない部活でギターを弾いているのも、この集団が持つ不思議な力のせいである。

ただギターを弾くだけなら、もっと上手いバンドはそこら中にある。中学の時に組んでいたバンドの方がはっきりいって数倍は上手かった。

しかし、この「桜高軽音部」は何か神秘的なものに包まれているような感じがする。それは漠然としていてなんとも筆舌に尽くしがたいが、きっと技能とか技巧とかより、もっと大切なものであると俺は信じている。

「コーヒーでも煎れましょうか?」

柄にもなく恥ずかしいことを考えてしまった。一段高い位置にセッティングされているドラムのハイハットが、心なしかくすりと笑ったように錯覚してしまう。

「ああ、頼む」

俺は紬が座っている椅子の対面に腰掛け、いつもと変わらぬ“部活動”を始めることにした。


***


琴吹家から紬が持参したいかにも高級そうなコーヒーカップに、俺がその辺のスーパーで買ってきた安っぽいインスタントコーヒーが注がれる。何という宝の持ち腐れ。本当は高級なコーヒーも持参してほしいところだが、あいにくコーヒーを飲むのは俺くらいなので(他はみんな紅茶だ)そこまで注文を付けるのも図々しい。

「はい、どうぞ」

「サンキュー」

手元に花びらの絵をあしらえたカップが置かれる。それを満たす茶色い液体から立ち上った湯気は冬の寒さを一層実感させる。

一口啜るとそれは血液と併走して体全体に染み渡る。この瞬間の心地よさはまた格別だ。

俺が一人悦に浸っていると、紬が自分用の紅茶を持って向かい側に座り、同じく紅茶を口にした。

その一連の動作がまた何とも優雅でスムースなこと。こんなところでも育ちの違いをありありと見せつけられる。

「こうして二人きりでゆっくり話すのって初めてかもな」

「そうですね。いつも皆さん揃っていますから」

「全くだ。姦しいったらありゃしない」

「咲夜さんも結構はしゃいでいますよ?」

「ツッコミと言ってくれ。俺がいないとボケボケばっかだろ?」

「ふふ、否定はできませんね。澪ちゃんも恥ずかしがり屋ですし。そこが可愛いんですけど♪」

「お前は相変わらずだな……」

「先生に無理矢理着せ替えられているシチュエーションもなかなか萌えますよね♪」

「……」

珈琲と紅茶に含まれるリラクゼーション作用の賜物か、会話がなかなかに弾んでいる(?)俺たち。暖房がいい感じに効いた室内で、紬の“百合トーク”が嫌な感じに熱気を帯びてきた。

俺は紬のペースに乗せられそうになる気持ちを飲み込もうと、カップの端へ口を付けた。その仕草を見守っていた紬が、一呼吸置いてから口を開いた。

「咲夜さんには、好きな人はいないんですか?」


***


紬の口から飛び出したあまりに予想外の質問に、俺は思わず口に含んだ飲食物を吹き出すという古典的諧謔反応を示してしまうところだった。何だ? こいつは今、何と言った?

「すまん、もう一度言ってくれないか。俺の聞き間違いかもしれん」

聴力と言語処理能力に某かの異常を来たした可能性を拭い切れず、一抹の不安を感じながら再度聞き返してみた。

「咲夜さんには好きな人はいないんですか?」

どうやら俺の聴力はまだ衰えていなかったようだ。ちょっと安心。

安心したのも束の間、その発言の意図と意味を熟考しようと試みるが、脳が麻痺してしまい上手く作動しない。

仕方がないのでとりあえず質問に答えることだけを目標とした。「好きな人」の解釈は極めて一般的な定義に従って考えていいんだよな? それなら……。

「いや、別にいないが……」

俺の返答を聞いても、特に何も返そうとしない紬。代わりに、紬の特徴的な眉毛が微かに上下に揺らいだ気がした。

「そういう紬こそどうなんだ? 好きな人とかいるのか?」

不意を突かれ不覚にも動揺させられたことへのささやかな仕返しだ。そう思って反撃に出たのだが、次に発せられる紬の言葉に、俺は再び返答に窮してしまう。

「私ですか? はい、いますよ」

あまりにも鮮やかなカウンタークロスに、もはやダウン寸前の俺。打開策を打ち出そうと脳全体が活発に蠢きだし、考えられる全ての可能性を必死に模索しようとする。

「それは澪か? それとも唯か? まさか、律……?」

百合好きな紬のことだ。もしかしたら「みんな私の嫁です♪」とか言い出しかねない。しかし実際に返ってきたのは、拍子抜けしてしまうほど素っ気ない言葉だった。

「さあ、どうでしょうか」

ウフフと悪戯気に笑う紬。お前はア○シアさんか。もう出会って9ヶ月が過ぎ去ろうとしているが、未だにその微笑みの奥に隠された真意が読めない。

俺が苦虫を噛み潰したような顔で紬を睨みつけていると、またもや突然思い出したかのように紬が声を上げた。

「あ、ごめんなさい。私、これから外せない用事があるのでお先に失礼しますね」

自前のティーカップを定位置に片づけ、「また明日お会いしましょう♪」と言い残し、そそくさと音楽室を後にする紬。そして一人為す術もなく取り残される俺。勝負は琴吹紬のKO勝ちということで幕が下りた。

「プレゼント、何にするかなぁ……」

すっかり意気消沈した俺は、聖なる夜に行われるであろう“桜高軽音部・クリスマスパーティー”に持参する贈り物の中身を考えながら、溜息混じりに温くなった珈琲を一口啜るのだった。


(終)





【あとがき】


抑揚のない話なので、要所要所に小ネタを散りばめてみました。シリアス(?)めな場面でも結構ふざけてます。

ムギの精神年齢が明らかに高すぎる気がする。いくらお嬢様でかつ黒設定(非公式)でもこれはないな。

弁解させてもらいますと、こういうキャラを書いてるとどうしても「あらあらウフフ」さんが重なってきちゃうんですよ。僕があの作品で一番好きなキャラなんですけど。

因みに紅茶の飲み方については「紅茶 マナー」で検索して調べたのですが、いまいちよく分からなかったのであんな書き方でお茶を濁しました。紅茶だけに(上手くない)。

最後に、こんな拙い文章ですが、もし楽しみにしてくれている方がいらっしゃるならばその方へ向けたコメントです。

絶対にとは言えませんが、SSは毎週水曜日に更新予定です。別に普段の記事には興味ないよという方にわざわざお手数をおかけするのも何なので、一応書いておきます。では。
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