『けいおん!』二次創作SS NX:澪シナリオ「fuwa fuwa time」

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二度目の文化祭を間近に控えた九月上旬のとある昼休み。俺、藤川咲夜はふとした気まぐれから、昼食──といってもコンビニパンだが──をいつもと違った場所で食べようと思い立ち、一人校内をぶらぶらと彷徨っている途中であった。

暦の上では秋といっても、温暖化が進んだ昨今の環境に鑑みると、まだまだ肌を湿らせるには十分な気温が続いており、それならば冷房の効いた教室で食事をすればいいようなものだが、何となく気乗りがせず飛び出してきてしまった次第である。

といっても上空に鎮座するのは燦燦と輝く太陽というよりはむしろふわふわした水滴の塊であり、外で食事をするにはあまり芳しくない天候である。そこで俺は本校舎から少し離れたところに建つ体育館棟へと足を運んだ。


「しかし、見事に誰もいないな……」


体育館棟の中は廃墟のように静まり返っており、まるで生命の存在を感じさせない。窓から差し込む太陽の光が暗く無限に伸びる廊下を不気味に照らし出し、昼間なのにどこか得体の知れない恐怖を醸し出している。

特別霊感を持っているわけではないが、この校舎内で食事をする気には到底なれない。俺は開放感を求め階段を一段一段上って行った。床を叩く足の音が壁で反響し、人数を増やして大きな古城の中を駆け巡っている。

何層にも渡る階段を上っていくと、やがて銀色の光沢を持つ一つの扉に突き当たった。小窓から光が漏れているところを見ると、どうやら外界と繋がっているようだ。俺はドアノブに手を掛け、ゆっくり手前へと開いた。


***


背後からギギギと何かが軋む音が聞こえ、体が飛び上がった。一瞬にして声が喉を通らなくなる。

な、なんだろう? 風かな? それとも、誰か来たのかな? でも誰が? ま、まさか、ゆ、ゆうれ……!?

自分で想像しておいて身震いしてしまう。変なこと考えなきゃよかった。今さら後悔しても後の祭り。

振り返るのは怖いけど、その正体を確認しないで背中に気配だけ感じているのはもっと怖い。そ、そうだ、勇気を出せ、秋山澪!

自己暗示的に自分を奮い立たせ、勢いに任せて上半身を左に捻る。先ほど音を奏でた“何か”は、屋上の出入り口のところでこちらを見ていて、互いの視線がぶつかる。そこにいたのは、私にとって唯一無二の大切な存在だった。


「──咲夜?」「──澪?」


呼びかけが見事にユニゾンし、二人して噴き出してしまう。物理的な距離はあるのに、精神的な距離はないような気がして嬉しかった。

なんて“柄にもない”ことを考えている間に、咲夜がゆっくりと近づいて来て私の目の前で止まり、口を開いた。

「まさか澪がいるとは思わなかったな。何でこんなところにいるんだ?」

いきなり核心を突く質問をされ、動揺してしまう。別に悪いことをしていたわけではないけど、いざ面と向かうと口にし辛い。

「それは、えっと……」

答えることを躊躇する私を見て不信に思ったのか、咲夜が訝しげな瞳で私を見つめてくる。無言のプレッシャーに耐えられなくなった私は、咲夜の顔を下から覗き込んだ。

「わ、笑わないか?」

「笑わないよ」と笑顔で返す咲夜。もうかなりの付き合いになるから、その甘い笑顔の下にもう一つの笑みが隠れていることを私は知っている。それでも最後には負けてしまうのがお決まりのパターン。私は観念して口を開いた。

「歌の練習をしてたんだ」

「歌?」

ふと胸の前で軽く握っている私の左手からはみ出した白い紙に視線を下ろして「ああ」と納得する咲夜。何となく恥ずかしくなった私は後ろに手を回してそれを隠した。

「咲夜こそ、どうしてこんなところに来たんだ?」

注意を逸らそうと別の方向へ話題を振ったんだけど、それが逆効果だったことに気が付くのはもちろん後になってからだった。

「俺? 俺は何となく外に出たかっただけだが……」

ふと、話の途中で咲夜は言葉を切ってしまった。そして数秒の間空を見上げ何を考えたかと思うと、一点の曇りもない声でこう続けた。

「もしかしたら、澪に導かれてここに辿り着いたのかもな」

不意を突かれ、私の顔は一瞬にして沸騰したように熱くなる。咲夜は相変わらず涼しい顔をしている。なんでそう、いつも……。

「しかし……」

撃沈し俯いてしまった私の頭上から、ある一つの疑問符が投げかけられた。

「あんな暗いところを一人で抜けてくるなんて、怖かったんじゃないのか?」

「そ、そんなことはないぞ! べ、別に、怖いから目を瞑って走って階段を上ったら躓いて転んだりとかしてないからな!」

その言葉に私は思い切り顔を上げた。ほんの数十分前に必死で駆け抜けてきた道のりがフラッシュバックし、無意識に口から言葉が堰を切った様に溢れ出した。ハッと気が付いて両手で口を押さえたけど、もう手遅れだった。

案の定、目の前の咲夜はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ私を見ている。うう、私が怖いもの苦手だって知ってるくせに……。

涙目になりながら咲夜を睨み付けてやったけど、咲夜は全く動じた気配を見せずに、勝手にどんどん話を進めてしまう。

「そういえば、歌の練習をしてたんだってな」

ちょっと歌ってみてよ、と、また私の心を惑わせる注文を付けてくる。

「こ、ここでか?」

「別に校庭でも教室でもいいけど」

律儀に想像してしまったら恐ろしくなって、首をちぎれんばかりにぶんぶんと横に振って拒否した。

「……わかったよ。ただ、下手でも文句言うなよ?」

「下手なはずはないと思うが、まあ了解」

そう言って咲夜は地面に腰を下ろした。澪の歌声を独り占めだな、なんてまた柄にもない気障な台詞を吐く咲夜に苦笑した。

和やかな雰囲気に私の心は落ち着いていたが、“人前で歌う”と頭で考えた瞬間、心臓の鼓動が一気にその速度を上げた。一年前からずっと歌ってきたのに、まるでステージに立って初めて歌うかのような緊張を覚える。雲の切れ間から差し込む太陽の光がスポットライトのように錯覚されて落ち着かない。

相手は咲夜だけ、と脳に言い聞かせても、周期が減衰することはない。むしろさらに勢いが増したようにさえ思える。

「すぅ……、はぁ……」

胸に手を乗せ、軽く深呼吸。数回繰り返すと気持ちが幾分落ち着いてきた。大丈夫、ちゃんと練習したんだから、きっと歌える。

息を吸い込み、目を軽く瞑り、私は最初の言葉を紡ぎ出す。

「キミを見てると、いつもハートDOKI☆DOKI……」

『ふわふわ時間』。私が軽音部に入って一番初めに作詞した、思い出の一曲。



――いつもがんばるキミの横顔 ずっと見てても気づかないよね

ギターを弾くことにも、運動会のことにも、困っている人を助けることにも、あなたはいつだって全力で向かい合ってきた。


――夢でいいから二人だけのSweet time欲しいの

本当に夢にあなたが出てきたときは、嬉しさと恥ずかしさと、色んな感情がごちゃまぜになって、その日は一日中目が合わせられなかった。


――ふとした仕草に今日もハートZUKI★ZUKI さりげな笑顔を深読みしすぎてover heat!

ちょっと甘さを含んだその笑顔は反則だと思う。でもみんなに同じ顔を向けていることに、心が痛んだときもあった。


――いつか目にしたキミのマジ顔 瞳閉じても浮かんでくるよ

“あの時”のあなたは、今までで一番格好よかった。今でも思い出すたびに顔が熱くなって、胸の高鳴りが止まらなくなる。


――もすこし勇気ふるって 自然に話せば 何かが変わるのかな? そんな気するけど

みんなが一緒にいるときは普通に話せるのに、二人っきりになるとどうしても体が強ばって、思い通りに言葉を伝えられなかった。



――だけどそれが一番難しいのよ 話のきっかけとかどうしよ てか段取り考えてる時点で全然自然じゃないよね


最初は部活動が同じ男の子くらいの認識だったのに、一緒の時間を過ごしていくうちに少しずつ想いは募っていって。

気が付いたときには心の中はいつもあなたでいっぱいになってて。意識すればするほど、口が上手く動かなくなって。

優しく接してくれるけど本当は嫌われてるんじゃないかとか、嫌な想像ばかりが頭の中を駆け巡って。

自分の本当の気持ちを伝えようとしたこともあったけど、勇気が出せなくて、結局伝えられなくて。

想いを溜め込む苦しさで胸が締め付けられて。もやもやしたものが渦巻いていって。

あなたと仲良さそうに話している親友に嫉妬して。胸のもやもやは大きくなって。

そんな自分が嫌になって。泣きそうになって。泣いてしまえば楽になると考えるようになって。

そんな自分も嫌になって。声を押し殺して泣いて。涙を拭うことも忘れて、子供のように泣きじゃくって。

逃げだったのかもしれない。歌詞に自分の気持ちを託すことで、現状から抜け出すことをずっと避け続けてきた。

この言葉は私の弱さの塊。だから今、思いっきり叫ぶの。もう二度と、こんな思いを繰り返さないために。



あぁ もういいや――!



「寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおーっ!」

『そう、寝ちゃおー!』


屋上のフェンスに止まっていた二羽の鳥と共に、アルトとテノールの旋律が空高く舞い上がった。


***


『そう、寝ちゃおー!』

客観的に見てこの上なく恥ずかしいラップ部分の終わり、普段なら唯が叫ぶ台詞を今日は俺が拝借し盛大に叫ばせてもらった。

「きゃあっ!」

今まで歌っていた澪が歌を中断し、代わりに可愛らしい悲鳴をあげた。俺が台詞を叫ぶと同時に思い切り澪に抱きつき、そのまま押し倒したからだ。もちろん澪に怪我をさせないよう器用に体を反転し、地面と澪の間へ自分の身を滑り込ませた。

その結果、今俺の体の上には澪が覆いかぶさるように乗っかっている。澪のまん丸い目と俺の視線が零距離でぶつかり、生温かい吐息が頬をくすぐる。

「さ、さささささ、さくっ、さくっ……!?」

しばらくそのままの体制で見つめ合っていたが、やがて澪が口を開いた。しかし頭の情報処理が追いついていないのか、言葉にならない言葉だけを繰り返している。

「咲夜っ!? な、いきなり何っ……!?」

「澪が言ったんだろ?」

動揺する澪の姿に悪戯心を駆り立てられた俺は、例のごとく澪をいじって遊ぶことにした。お題はもちろん“あの言葉”。

「な、何を……?」

「『寝ちゃお』っか♪」

「ッッッッッッ!?!?」

俺の発言に澪は一瞬にして顔を真っ赤に染め上げる。そして口をあわあわさせながら慌てて言葉を繋ぐ。

「あ、あれは歌詞の一部で……!」

「あ、でも変な意味じゃないぞ? 睡眠という意味での『寝る』だからな?」

「わ、わかってるよ! 大体、私が書いた歌詞なんだぞ? そんな、その……そんな意味で書くわけ……」

手を胸の前でもじもじさせる澪。何となく体がもぞもぞと動いているように見えるのは気のせいだろうか。

「ん? そんな意味って、澪はどんな意味に受け取ったのかな?」

「ッッッッ!! は、はめたのか、咲夜!?」

「俺の想像が正しかったら、澪は変態さんになっちゃうけどなぁ?♪」

「……さくやのへんたい。いじわる。女たらし……」

子供のようなやり取りを繰り返す俺と澪。目の前の顔が今にも泣き出しそうに歪んでいたので、からかうのはこの辺にしておく。

俺は機嫌を損ねてしまった澪を抱いたまま体を横へと倒した。体を支える土台を失った澪はビクッと体を震わせるが、すぐにまた冷やりとした地面の上で安定を取り戻す。

「ほら、力抜いて」

「ん……」

頭を撫でると澪はふにゃりと顔を緩ませて、俺の言うとおり体の力を抜いた。本当に眠かったのだろうか、閉じたり開いたり、ぼんやりとした瞳で俺を見つめている。

「でも、寝たら授業までに起きれない……」

「大丈夫。俺が起こしてやるから」

あまり信用ならないといった目で見られたが、眠気には勝てなかったのか、澪は素直に目を閉じた。

ふと視線を空へと移すと、先ほど舞い上がった二羽の番が、互いの愛を確かめ合うようにぴたりと寄り添っていた。


***


咲夜の腕の中はとろけるような安らぎを与えてくれる。温かくて、広くて、いいにおいがして。

あ、えと、その、実は毎日のように抱きしめられてはいるんだけど……。添い寝も別に初めてじゃないし、あの、ちゃんと、こんな感じで布団の中でも……って、こ、ここまで言う必要はないだろ!?

自分で変なことを想像してしまい、しかも心の中で自分にツッコミを入れるというこの上なく恥ずかしい行為をやってしまい、蒸気が出そうなくらい顔が熱くなるのを感じた。それを勘のいい咲夜に悟られたくなくて、さらに深く顔をうずめる。

私が顔を押し付けると、咲夜の腕に少しだけ力がこもるのが分かった。それがなんだか嬉しくて、私も甘えるようにぎゅうっと抱きつき返して答えた。

夏の心地よい風がふわりと私の髪をなびかせて遊んでいる。空に浮かんでいた雲はいつの間にか一つ残らずどこかへ流れてしまっていた。

太陽の光が私たちを祝福するように、澄み渡る青空から降り注いでいる。大好きな人の腕の中で、私は深い眠りへと誘われていった。


(終)





?おまけ?


「文化祭が近いというのに、いいご身分ねぇ、咲夜クン?」

「何でここが分かったんです、さわ子先生?」

「音楽の時間、二人とも揃って欠席だったらそりゃ怪しいと思うでしょ? あなただけならともかく、澪ちゃんまでサボりに付き合わせるなんて……」

「すぅ……すぅー……」

「気持ち良さそうに寝てるわね。まったく、幸せにしてあげなきゃ駄目よ?」

「言われなくても大切にしますよ。そりゃあもう、ウザいくらいに」

「――ふふ、あなたはそういう人だったわね」

「くぅ……くぅー……」

「さあて、私は文化祭用の衣装でも作ろうかしら。今年は残暑が厳しいから、浴衣なんていいかもしれないわ」

「いいですね。脱がせやすいのをお願いします」

「言われなくてもそうするわよ。そりゃあもう、エロエロにね」

「さすがさわちゃん。……因みに、一応聞いておきますが、俺の衣装は」

「野郎に着せる衣装はない」

「ですよねー」


(しゅうりょう!)





【あとがき】


なんでさっくんはこんなに黒くなっちゃったんだろう? 誰か漂白剤持ってきてー!(何

さて、長らくお待たせ致しましたが、けいおんSS、一ヶ月ぶりの更新です。今まで待っていてくださった方、本当にありがとうございます。そしてお待たせして申しわけございません。

おそらく初のパロネタなし。全体としても一番まともに書いた気がします。各パート毎に色々な書き方をしてみました。

僕が女キャラを書くと必ずどもるんだけど、シチュがシチュなだけに仕方がないのかなぁ……。ど、どうすればいいと思います?

次回のAll編はちょっと白くします。久々にうろたえるさっくんが見られるかも!? では。
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漂白剤と石鹸持ってきました!(爆
ss更新有難う御座います
さわちゃんが授業中にけしからん的な態度取って無くてよかったですw
むしろ寝てる澪の隣である意味の澪弄りしてますしね

大丈夫です!まだキャラのイメージは壊れてません!(最近膨れ上がったimagenationで)
次は真っ白なさっ君が見られるんですねw楽しみにしてます

長文失礼しましたm(_ _)m<(_ _)>

お、ありがとう。じゃあ咲夜を洗濯機に突っ込んで……これ以上は自重しておく。
いやいや、こちらこそ読んでいただきありがとうございます。さわちゃんはやはりああいうキャラじゃないとw何気に初登場です。

imagenationがどんどんレベルアップしている!恐ろしい子……(笑)
さっくん、この辺で浄化してやらないとねwまあキャラがブレブレなのは今さらです。
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