『けいおん!』二次創作SS AP:梓シナリオ「プリーズハグミー!」

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私立桜が丘高校、四階、音楽室前。私の前に対峙している横開きの扉が、教室にあるものの何倍も大きく見える。

軽音部に入部しようと思ったきっかけは去年の学園祭のライブの録音を聴いたことだった。私と同じパートを務めるギターの人の演奏が凄く上手くて憧れていた。

そしてつい先ほど体育館で披露された軽音楽部の新歓ライブを見て、改めてこの人たちと一緒に演奏したいと強く思い、入部届を普段はピックを持っている右手に握り締め、今こうして音楽室の前に立っている。

心臓がばくばくと早鐘を打っている。果たして受け入れてもらえるのだろうか。不安な気持ちを抱えながらも、私は意を決して眼前にそそり立つ扉に手を掛けた。

「あの?……」

元々小さい体をさらに縮こませて中の様子をおずおずとうかがう。部屋の中では四人の女性がテーブルを囲んで話をしていた。

「軽音部ってここですか? 入部希望なんですけど……」

私が声を出したにもかかわらず、円卓の四人はまるで時が止まったかのように硬直していた。声が小さくて聞こえなかったのかな? 不安な気持ちはますます増長する。

しかし、やがて女性たちの硬直した顔が少しずつ解け始め、笑みへと変わっていった。その中でもある一人の女性は私の方へゆっくりと近づいてきて、そして――。

「確保ーーーーっ!!」

「ぎゃーーーーーーっ!?」

私は確保されました。


***


「ようこそ、軽音部へ!」

黒髪ロングの女性に殴られて頭にたんこぶを作ったおでこの広い先輩がウェルカムポーズを取りながら言う。

「ほら、こっち、座って座って」

新歓ライブでギターを弾いていた女の先輩に促されるまま、私はイスに座る。

「お名前は何ていうの?」

ギターの先輩が質問する。

「あ……中野……」

私は「中野梓です」と答えようとする。

「パートは何やってるの?」

が、おでこの先輩がそれを遮って質問する。

「あ……えっと……」

私が「ギターです」と返そうとする。

「誕生日は?」

しかし、ギターの先輩はまた新しい質問を始める。

「血液型は?」

私が答えるより早く、おでこの先輩が質問を繰り出す。

「好きな食べ物は?」

おでこの先輩の質問にギターの先輩の質問が重なる。

「えっと……あの……」

「落ち着けお前ら」

私の頭が目まぐるしく移り変わる話題に付いていけず危険信号を出していたところを、黒髪の先輩がレスキューしてくれた。


***


質問に次ぐ質問で一度はグダグダになってしまったが、その後は真面目に自己紹介をした。私の憧れだったギターの唯先輩、背が高くてしっかり者の印象を受けるベースの澪先輩、明るくお天気やさんでおよそ部長らしくないドラムの律先輩、おっとりしていて凄く優しい雰囲気を醸し出しているキーボードの紬先輩。どの先輩もとてもいい人そうで安心した。

「ふ?、やっと機材の収容終わったよ……」

と、ふいに音楽室の扉がガラガラと音を立てて開いた。春の暖かい風とともに姿を現したのは、桜が丘の黒い学生服を身に纏った男性だった。

「あっ、しゅーくん! おかえり?」

「意外に早かったな?」

「お疲れ様です」

「唯、律! おまえら『おかえり?』だの『意外に早かったな?』じゃねえよ! 咲夜と亮吾と三人で機材運搬頑張ったんだぞ! 少しは敬いの心というものをな……」

突如音楽室に乱入してきた“しゅーくん”と呼ばれる謎の男性。しばらくの間先輩方に悪態を吐いていたが、そんな彼が私のことを見て口を止めた。私も彼のことをずっと見ていたため、二人の視線がぴたりと重なった。

「ごめんな、お疲れ様。でもちょうどいいところで帰ってきたな。梓、こいつは軽音部の黒一点で、神山……」

澪先輩が私の数歩前にいる男性の紹介をしている途中で、彼は止まっていた足を動かした。彼は一歩一歩私と先輩がいる方へ近づいてきて、


ぎゅっ。


「えっ?」

突然肩にのしかかって来た温かい重み。背中に回されるほどよく筋肉の付いた腕。男の人特有の形容しがたいけれど鼻孔を擽るいい匂い。

私はいつの間にか、正体不明の男性に抱きしめられていた。

「きゃああああああああああああ?!?!」

あまりに自然すぎる流れに何が起こったのか分からずしばらく呆然としていた私だが、やがて頭に血が通って現状が把握できてくると、顔を真赤にして力のあらん限り叫んだ。本日二回目の絶叫。しかしそれはつい先ほどのものとは比べ物にならないほど大きかった。

隣で私と同じように唖然としていた澪先輩も私の絶叫ではっと意識を取り戻し、男性の行為を咎めるために慌てて口を開いた。

「ちょっ、修二、何を」

「可愛い……」

「………………は?」

未だ私を抱きしめたまま、私の頭をくしゃくしゃと撫で繰り回す男性。その隣で口をぽかんと開けている澪先輩。そして男性の腕の中でもがき続ける私。

それが私と修先輩の、最初にして最悪な出会いだった。


***


私が軽音部に入部してから約一ヶ月。始めは練習を全くしなかった先輩たちも次第に練習するようになってきて、私もなかなか理解できなかった軽音部のまったり感に少しずつだけど馴染んできた。

そして、このやりとりにももう馴染んできた……。

「あ?ず?さ?♪」

休憩時間(ティータイム)、ソファに座って紅茶を飲んでいた私の背後に忍び寄り、いきなり抱きついてくる男性――修先輩。初めのうちはびっくりしてティーカップごとひっくり返してしまったが、もはや背景の一部のように無視して紅茶を嗜むほどにまで私は成長していた。

「あー、梓は可愛いなぁ?♪」

一ヶ月の実体験から分析したところ、先輩の行動は三パターンに大別できる。「頭なでなで」「頬擦り」「両腕でぎゅっと抱きしめる」だ。今日は「頬擦り」にしたみたいだが、これは顔が震動するので紅茶が一番飲みにくくやっかいなのである。

「いやー、すっかりベタ惚れだねぇ……」

「まさか初対面で抱きつくとは思いませんでした……」

「一歩間違えれば犯罪だぞ……」

その様子を見つめながら毎度お馴染みのコメントを呟く先輩たち。犯罪だと思うなら見てないで助けてくださいよ……。

正直訴えたら勝てそうな気はするが、それには何となく気乗りがしなかった。しかし、いくら寛容な私にだって我慢の限界はあるわけで。

「もう、修先輩! いい加減にしてください!」

いい加減うざったくなったので、私は長所であり短所である小さい体を利用して牢獄からするりと抜け出す。

すると先輩はいつも通り口をへの字に曲げ、こう文句を垂れるのだ。

「え?、なんでだよ?。まだ休憩時間終わってないぞ?」

「関係ありません! 最初から抱きつかないでって言ってるじゃないですか!」

「だって梓が可愛いから……」

「……理由になってません!」

顔の血流が激しくなるのを自覚した。この「可愛い」という単語だけは何度聞いても慣れない。そもそも私なんかより澪先輩たちの方がずっと可愛いのに、なんで私だけこんな目にあっているのだろう?

先輩を睨みつけながら頭の中でそんなことを考えていると、またしても私の背後から先輩が体を押し当てるようにしてぎゅっと抱きついてきた。

「えへへ、あずにゃん温かい?♪」

そう言いながら先輩──唯先輩は私の頬に自分の頬をくっつけてくる。……こっちも頬擦りですか。

「あ、唯ずるいぞ!」

唯先輩と張り合うかのようにして、今度は前から私を抱きしめてくる修先輩。二人の間で私はサンドイッチの具状態になり、息をするのもままならない。

「しゅーくんはあずにゃんを独り占めしすぎだよ! あずにゃんはみんなのものなんだから!」

「そうかもしれないけど、俺にだって愛でる権利はあるだろ!」

先輩たちが人権を無視した言い争いを続けている間にも私の内では沸々と怒りが育っていき、そしてそれが臨界点に達した時、私は渾身の力で両脇のパンを押しのけた。

「二人とも離れてくださーーーいっ!!!」

勢い余って宙を舞ったティーカップが、やがて床の上でガシャリと音を立てて砕け散った。


***


「全く、修先輩も唯先輩も困ったものです!」

部活動の終了時刻である午後5時半を回ったので今日の軽音部の活動は終了し、私は一人で自宅への帰り道を歩いていた。

結局、あの後澪先輩が二人を叱りつけて私への“可愛がり”は幕を下ろした。しかし、為す術もなくもみくちゃにされたことへの怒りは未だ収まるところを知らない。

因みに割れたティーカップに関してはムギ先輩が「いいのよ、安ものだから」と柔和な微笑みで許してくれた。私が悪いということはきっとないはずなのだが、ムギ先輩が優しい人なだけにどうしても負い目を感じてしまう。

「修先輩は用事があるとか言って先に帰っちゃうし……本当、いい加減な人なんだから」

もはや怒りを通り越して呆れてしまう。あんな扱いを受けても根は優しい人だと思っていたからまだ我慢できたのに、これでは先輩への認識を根底から改めなければいけないかもしれない。

すっかり気を重くした私が少しでも気を紛らわせようと周囲の景色を眺めながら歩いていると、道路を挟んだ向こう側に、見覚えのある影がたたずんでいるのを見つけた。

「あれ、あそこにいるのって……修先輩?」

私が今いるところからおよそ20歩ほどの距離であろうか。修先輩らしき人物が交差点の一角に立っているのが見える。ここからでは後ろ姿しか見えないが、あれだけ毎日一緒にいるのだ、見間違えるはずがない。

「こんなところで一体何を――!?」

用事があると早退したはずの先輩がこんな学校から数分程度行った場所にいることに疑問を覚えた私は声をかけるために道路を渡ろうとしたのだが、その直後、信じられないことを目撃し足が動かなくなった。

どこからかやってきた見知らぬ女の人が修先輩に歩み寄り、腕を背中に回して勢いよく抱きついたのだ。

女性はモデルのように整った体型をしていて、修先輩よりも若干背が高い。そして、その……胸もかなり大きい。

知らないうちに視線が自分の体の真ん中より少し上辺りへ向いていたことにハッと気が付き、慌てて首を上げた。比較しちゃだめ、比較しちゃ……。

改めて二人の方へ目をやると、既に女の人は先輩から体を離し、足並みを揃えて歩き出していた。どうやら場所を移動するらしい。

私の足は二人が歩みを進める方向に自然と引き寄せられられていき、気が付けば物陰に隠れ一定の距離を保ちながら二人の後を追っていた。

「べ、別にこれは修先輩のことが気になるとかそういうことではないんです。ただ先輩とあの女の人が一体何をしているのかを知りたいだけなんです」

私は誰に自分の心境を説明しているんだろう。心が動揺しているのか、とにかく言葉を口に出さずにはいられなかった。

約10分ほど歩いただろうか。修先輩と謎の女性、そして後を追う私は、この辺りでは一番大きな繁華街にたどり着いた。

「買い物でもするのかな……」

私の予想は見事的中し(というかここに来て買い物以外に何が出来るのか問いたい)、二人はブティック、雑貨屋、喫茶店など、いかにも若いカップルが行きそうなお店を余すことなく巡っていった。

道中でも、会話の内容までは分からないけれどとても楽しそうな様子だった。腕を組んだり、女の人が先輩のほっぺたを突いたり……。

「恋人……だよね?」

傍から見ればどう考えても恋人にしか思えないような行動。容姿的にも美男美女でとてもお似合いのカップルだ。

私は二人の後に付いて一軒一軒お店の扉をくぐる度に、胸がきゅっと締め付けられる思いがした。なんでこんなに苦しいんだろう。先輩に彼女がいたって、私には関係ないはずなのに。

「いつも、抱きついて、くるくせに……」

全てのお店を回り終え二人がそれぞれの帰路に着いたとき、私の瞳からは一滴、また一滴と涙が零れ落ちていた。


***


「あれ、梓?」

「!?」

迂闊だった。視界が滲んで周囲の景色がぼやけていたので、いつの間にか修先輩が私に近づいていたことが分からなかった。

「こんなところで何を──!?」

先輩は私が泣いていることに気が付いてしまったらしく、言葉の途中で息を呑んだ。涙でぐしゃぐしゃの顔を見られまいと必死で顔を隠すが、一度溢れ出した涙はとどまることを知らない。

「なんでも……ぐすっ……ない、ですっ……」

「何でもないって、そんなに泣いてるのに……」

私を安心させようとしたのだろうか、先輩はいつものように私に近づき、腕を伸ばして抱きつこうとした。私はその体に触れた腕を乱暴に振り払った。

「なんでそうやってすぐ抱きつこうとするんですか!! 少し気に入った女の子には誰彼構わず手を出すんですか!?」

先輩の軽薄な行動に気分を悪くした私は胸に支えていた言葉を勢いに任せて吐きだした。もはやオブラートに包む余裕など、私には残っていなかった。

私が普段吐かないような暴言を口に出したことに面食らったのか、先輩は目を丸くしてしばし固まっていたが、やがて眉間に皺を寄せ怒った様子で反論してきた。

「なっ……!? 何だよそれ! 俺がそんな節操無しに見えるのか!?」

「だってそうじゃないですか! あんなに綺麗な彼女がいるのに、学校では私に抱きついてきて……意味わかんないですよ!」

「それは梓が…………え? 彼女って?」

一度鞘から飛び出した刀は、収まる場所を知らなくて。私はただ口が動くままに、がむしゃらに修先輩を責め立てた。

「まだとぼけるんですか!? さっきからずっと一緒にいたじゃないですか! あんなに仲良さそうに服選んでお茶して、あれが彼女じゃなかったら一体誰」

「ちょ、ちょっと待った! あれは彼女じゃなくて……!」

これだけ責め立ててもなお言い逃れを続けようとする修先輩に、散々高まってきた私の怒りはついに頂点に達した。これ以上この人と言い争っていたら私がどうかしてしまう。そう思った私は、目の前の男に向かって最期の言葉をぶつけた。

「言い訳は聞きたくありません! もういいです! これから金輪際私に近寄らないでくださ――」

「ちょっと修二、何だか騒がしかったから戻ってきたら、こんな道端で痴話喧嘩? あんた、女の子泣かせるなんて最低よ」

「そうです、最低です! ――えっ?」

突如耳に押し入ってきた甲高い声に驚いて視線を修先輩の後ろへ向けると、そこにいたのは先ほどの背が高い女の人。その人が今私の目の前で、修先輩の頭に拳をぐりぐりと押し当てている。

「いてててて! だから誤解だって! 梓も、落ち着いて話を聞いてくれ!」

私はあまりに突然の出来事につい数秒前まで感じていた強い感情を完全に忘れ、目の前で繰り広げられている光景をただ呆然と俯瞰することしか出来なかった。


***


「お、お姉さん!?」

「そう。神代真尋、残念ながらこのバカ修二の姉よ。よろしくね、梓ちゃん♪」

修先輩の姉と名乗った神代真尋――カミシロマヒロ――という目の前の女性。詳しく話を聴いてみると、どうやら本当に修先輩のお姉さんのようだ。真尋さんは先輩より三歳年上(つまり私より四個上)の大学二年生で、この辺りにある短大に通っているらしい。

「で、でも、さっき出会い頭に抱きついてたし……」

「あれは抱きついてたんじゃなくて不意打ちの首締めを喰らっただけ」

「……だ、だけど、腕も組んでたし!」

「あれは腕を固められてただけ。姉貴は暴力を振るってないと生きられない人だから……」

「ん? 修二、なんか言った?」

「いえ、何も?」

「…………」

先ほどまで私が先輩の恋人だと勘違いしていた女の人がまさか先輩のお姉さんだったなんて、一体誰が予想できただろうか。私は開いた口を塞ぐことが出来ず、ただただ酷く間の抜けた顔をして修先輩と真尋さんの会話を耳に通していた。

「それで、梓ちゃんと修二はどういう関係なの?」

やがて真尋さんの自己紹介が終わると、今度は真尋さんが私に質問してきた。白羽の矢が立ったのはもちろん、先刻の激しい言い争いだ。

「ふえっ? ど、どういうって、別に何も……」

「またまたぁ。路上であんな大声を出して痴話喧嘩なんて、青春街道まっしぐらじゃない♪」

「ち、痴話喧嘩じゃないです! あ、あれは、修先輩がいけなくて……」

「こういう関係かな」

「きゃっ……!」

顔をにやけさせながら問いただしてくる真尋さんの誤解をなんとか解こうと必死になって説明する私を尻目に、先輩は普段の調子で憚ることなく私を後ろから抱きしめてきた。頭一つ分高いところから先輩の声が聴こえる。

「ん?、やっぱ梓の体って柔らかくて気持ちいい?♪」

「せ、センパイっ! お姉さんが見てます、見てますからっ!」

「あれ、じゃあ見てないところならいいの?」

「揚げ足取らないでください!」

頬が紅潮し、息が苦しくなり、心臓がドキドキと音を立てて鼓動している。この状況で火に油を注ぐなんて、やっぱりこの人は馬鹿なんだ。先輩のぬくもりを背中に感じながらそんなことを考えていた。

そんな私たちのことを案の定、真尋さんは一段とニヤニヤしながら大人の目で感慨深そうに見つめていた。

「何だ、やっぱり“そういう”関係だったのね」

「誤解です……もう……」

神代姉弟の舞台に台本も読まず立たされた私は、リハーサルの段階で空回りし疲れ切ってしまうのだった。


***


「修先輩のせいで今日は散々です……」

「俺は楽しかったけどね」

真尋さんと別れた後、私と修先輩は私の家へ繋がる道を二人で歩いていた。先輩が私に「送っていくよ」と言い出して聞かなかったからだ。

「これで俺が梓一筋だってことが分かったでしょ?」

「…………」

先輩がしてやったりみたいな顔で私を見る。憎たらしいほど明るい笑顔。その笑顔が、知らないうちに女性を惹き付けているということはないのだろうか。

実際、あの時涙を流したのは不安だったからで、その不安は修先輩と真尋さんの関係が気になったからで、それはつまり私のそういう気持ちを表しているはずで……。

自分で考えていてもなんだかよく分からなくなってきた。でも、その事実を素直に受け止めるのはなんだか面白くない気がした。だから私は何も言わず、ただただ一途に家へ帰ることに集中した。

そんな私の様子を見かねたのか、先輩が何やらガサゴソと制服のポケットを漁り始め、その中から綺麗にラッピングされた小さな袋を取り出した。

「はい」

そして短い言葉とともに、私にそれを手渡してきた。私は意味も分からずその袋を受け取る。

「これは……?」

「開けてみて」

先輩に促されるまま紐を解いて袋を開けてみると、中に入っていたのは可愛らしい猫の形をしたペンダントだった。

「梓のこと怒らせちゃったからさ。せめてものお詫びと思って」

そこで先輩は、今日何故真尋さんと一緒に買い物をしていたかの理由を教えてくれた。

なんでも、音楽室での“可愛がり事件”で私が本気で怒っているのを見て流石にやりすぎたと反省した先輩は、私へのお詫びの印として何らかの贈り物をしたかったらしいのだが、女性にプレゼントなどしたこともない先輩は何を選んでよいのか皆目見当も付かず、仕方がないので真尋さんを呼び出し贈り物の内容を一緒に考えてもらった、ということらしい。

全てを語り終えた先輩は、私が怒っていないのを確認してから「頭なでなで」をしてきた。先輩の大きな手から伝わってくる感触は、いつもより優しかった。

「……お詫びなら、ふつうっ、ムギせんぱいに……わたすもの、ですっ……!」

私は再び溢れ出して止まらなくなった涙を拭うために、小さな手のひらで顔をぐしぐし擦るのだった。


***


翌日。私立桜が丘高校、四階、音楽室前の階段脇。放課後になり、授業を終えた学生たちが教室を離れ各々が所属する部活動へと散っていく。

私ももちろん例外ではなく、二階にある一年生の教室を出て階段を走って上り、急いでここまでやってきた。私がそこまで急ぐ理由はただ一つ。ある人を待つためだ。

私が到着してから五分ほどが経過しただろうか。ようやく姿を現した“待ち人”に、私の心はとくとくと高まる。

今まさに音楽室の扉を開けようとしているその人のもとへ私は駆け寄っていき、背後から腕を回してぎゅっと抱きついた。

「うわっ!?」

突然背中に負荷された重力に驚いたのか、首を向けてその正体を確かめようとしている待ち人――修先輩。しかし背の低い私の姿はどうにも捉えられないようだ。私は姿を見られないのをいいことに顔をぐりぐりと先輩の背中に押し当てて、先輩の温もりと匂いを楽しんでいた。

「もしかして、梓?」

「はい」

姿も声も隠しているのに、先輩は急な襲撃者の正体を私だと言い当てた。私はそのことに特に驚くことはなかった。さすがに一ヶ月間私を抱きしめ続けたのだ。その感触がきっと体に染み付いているのだろう。

「……何してるの?」

先輩が疑問たっぷりの声で尋ねてくる。普段は聞かないような台詞だけれど、私の返答は既に決まっていた。


あんまりやりすぎると調子に乗っちゃいそうだからよくないけど。

「……お返しですっ」

たまには、私から行動してみるのも悪くないかもしれない。


(終)





【あとがき】


……長いよ! 自分でもびっくりの長さだよ!

容量にして約18.3KB。僕がSSを書き始めてから毎回少しずつ分量が増えているのは自覚していますが、まさか復帰第一弾にしてNX唯シナリオの16.6KBを軽々超えるとは誰か予想せべけんや。

内容に関しての裏話としては贈り物。僕自身贈ったことがないのでよく分からないのですが、「ペンダント」で画像検索したところ、上から六番目に「ねこペンダント」というのが出てきたので、あ、これはいけると(笑)。ただ、そのペンダントがどう見ても猫に見えな(ry


さて、始まりました新シリーズ「another participator」略してAP。そして、ついに新主人公が登場です。これが書きたいがために頑張って早めに仕上げました(笑)。なので誤字脱字が多いかもしれませんがそこはごめんなさい。

咲夜は聖人君子的な面が強いのでただ甘いだけorギャグテイスト(それでも僕としては満足なのですが)の話しか書けなかったのですが、修二は友達感覚を備えているため、今回のような軽い喧嘩ネタもより自然に書けるような気がします。

まあ本格的に更新するのは来年度になると思いますが、楽しみにしてくださる方のために、そして何より僕が楽しむために頑張って書きたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。では!
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ジャンル : アニメ・コミック

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非公開コメント

お久しぶりです。
SS、とても面白かったです。

修、羨ましいなあ……梓と仲良くやっていってほしいです。
つーか、修の行動ってはんざ……いえ、なんでもありません。

ところで、唯シナリオの「love yui life」は(仮)となっていますけど、変える気無いですよね?
普段の綺羅さんを鑑みるに、そんな気がします。

これからも楽しみにしていますので、頑張ってください。

コメ返。

>>かいとさん

どうもお久しぶりです。毎回お読みいただきありがとうございます!

一応、咲夜編は「咲夜←けいおんメンバー」の話を、修二編は「修二→けいおんメンバー」の話を多めにしようと考えています。だからガンガン攻めていきますよ(笑)。はんざ……まああくまで創作ということでw

そんな、仮は仮ですよ。今まで僕が「(仮)」と付けた作品でタイトルを変更した作品は……一つしかありません(笑)。しかもそれは唯憂→唯という大幅な変更でしたし。
ということで、よく分かっていらっしゃるwタイトルから推測できると思いますが、僕の気まぐれに付き合っていただきたい所存でございます。

最初は確かに大変なところもありましたが、今では趣味として楽しみながら書いています。息抜きとして書き進めていくので気長に待っていてください♪
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