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『けいおん!』二次創作SS AP:澪シナリオ「雨に寄り添う」

まずはこちらをお読みください→





「まさか本当に降るとは……」

「だから言ったんだ、『傘持って行った方がいいぞ』って。それなのに……。はぁ……」

心底呆れた顔をした澪が深いため息を吐く。地面に当たって跳ね返った雨粒が、俺の衣服をじわりじわりと湿らせていた。


***


春から夏へと季節が移り変わった六月中旬、私立桜が丘高校に通う俺――藤川咲夜は、俺が所属する軽音楽部のメンバーの一人である秋山澪と一緒に、高校から二駅ほど離れた場所に立地している楽器店を訪れた。というのも、澪が普段愛用しているベースの調子がおかしくなってしまったので、それを修理してもらうためである。俺が一緒にいるのは楽器店へ行くという澪に「暇だから」勝手に付いていったからだ。

行きは快晴も快晴。太陽が万遍の笑みを浮かべて地上を見下ろしていた。そのため、俺は「念のため傘を持っていったほうがいい」という澪の忠告をへらへらと受け流し、財布と携帯以外は何も持たずに学校を出発してしまった。

しかし、楽器店にベースを預けいざ帰ろうと店の扉をくぐった直後、俺たちを歓迎したのは大量の流水であった。あんなにニコニコしていた太陽はどこへやら、いつの間にか機嫌を損ねた彼は大粒の涙を流し、泣いていた。

「まったく、咲夜が付いて来るなんて言わなきゃ、こんなことにはならなかったんだぞ」

「返す言葉も御座いません」

楽器店を出てから隣で愚痴ばかりこぼしている澪。今回は忠告を聞き入れなかった俺に全面的に非があるので、何を言われても怒ることは出来ない。

けれどもそのこととは別に、さっきからどうも澪の様子がおかしい気がする。帰り道、傘が澪の持ってきた一本しかないので仕方なく一緒に入ることにしたのだが、澪は傘の端の方で縮こまっていて、俺が近寄って距離を詰めてもすぐにまた端の方へ寄っていってしまう。何だろう、俺嫌われてるのかな? 確かに傘を持ってこなかったのは悪かったと思うけど、そんなに避けなくてもいいじゃないか……。

仲間であり友人だと思っていた澪に避けられたショックで気持ちが滅入ってしまった。周りで降りしきる雨が急降下していくテンションに拍車をかける。

しかしそう落ち込んでいるわけにもいかなかった。そのままの状態でいたら澪が体を冷やし風邪を引いてしまうかもしれない。そんな最低な男にだけはなりたくない。

「そんな端っこにいたら濡れちゃうだろ。もっと中に入れよ」

「きゃっ……!」

傘の勢力範囲からはみ出し、雨で湿った澪の左肩を引き寄せる。澪は恨めしそうな顔で俺のことを睨みつけていた。

「……やっぱり俺のこと嫌いなのか?」

「………………は?」

一転、今度は目を丸くして驚いているような表情で固まった。ころころと変わる表情は見ていて飽きない。

「だってさっきから俺が近寄ると離れてくじゃないか。そんなに嫌なら先に帰るから、澪は後からゆっくり……」

「ち、ちょっと待った! 何でそんな話になってるんだ!?」

「……だから、澪が俺を避けるから……」

「そ、それは、その、別に咲夜が嫌いとか、そういうわけじゃなくて!」

慌てて否定する澪。声の力強さからして、どうやら嘘を言っているということはなさそうだ。

「じゃあどうして俺を避けるんだよ? 傘一本しかないんだから、もっと近寄らないと濡れるぞ?」

「……ッッ! そ、そんなこと言えるわけないだろ!? 咲夜のバカっ!」

そう言って澪は口を尖らせそっぽを向いてしまった。俺はますます意味が分からなくなり困惑したが、どうやら嫌われているわけではなさそうなので安心した。

俺は澪が着ているブレザーに吸収されずに溜まった水滴を払い落とした。澪は相変わらずそっぽを向いたままだったが、その顔は太陽が隠れているにもかかわらず、ほんのり赤く染まっていた。


***


一本の傘の中で肩を並べて歩くこと数分、先ほどまで冷たかった左半身が次第に温まってきた。相変わらず澪はこちらを向いてくれないのだが、それくらいは我慢することにしよう。

それからさらに数分が経過したとき、俺の横を歩いていた澪がふいに立ち止まった。俺も慌てて歩みを止め、澪の方を向く。

「あれ……? なあ、咲夜」

「どうした?」

「あんな店、来たときあったか?」

澪が指をさした先には小さな木造の店があった。都会には馴染まないその風貌から察するに、アンティークショップか何かだろうか。

「そう言われれば、見覚えないような気もしないでもないが……」

コンクリートで造られた隣の建物と比べても明らかに浮く存在。俺たちが通っているのは行きと同じ道だから、二人してこんな珍しい店に気が付かないはずはない。しかもその店は――これはあくまでも俺が感じた印象だが――単に外見的に珍しいでは片付けられない、どこか神聖な雰囲気を讃えていた。

「入ってみるか?」

俺の問いかけに澪はこくりと首を縦に振る。それを合図に、俺たちはゆっくりとその店に近づいた。

アーチ状にかたどられた扉をゆっくり押し開けると、カランコロンという鈴の音が店内に鳴り響いた。その音に誘われるように、俺たちは店内に足を踏み入れる。

「雑貨屋……かな?」

「へえ、結構品揃えいいじゃないか」

赤と茶色の中間色をした照明が洒落た雰囲気を醸しだしている。内装も落ち着いていて、可愛らしい動物の形をした置物から、装備したら呪われてしまいそうな仮面まで、実に多種多様な雑貨が飾られていた。

「なあなあ、咲夜、このうさぎかわい……」

「おや、いらっしゃい」

「ひぁっ!?」

透明なガラスで作られたお気に入りのうさちゃんの置物を見つけて楽しそうにしていた澪の背後から突然しわがれた声がした。澪は驚きの悲鳴を上げ持っていたうさぎの置物から手を離し、疾風迅雷、凄まじい速さで俺の背後に回り込んだ。

「あぶねぇっ!」

俺が伸ばした手は紐なしバンジーする置物が地面に激突するのを間一髪のところで食い止めた。危なく財布の中が空になるところだったぞ……。

うさちゃんをそこらへんの棚へ置いてから、俺は先刻の声の主へと目を移した。そこにいたのはどこにでもいそうな、至って普通の婆さんだった。曲がった腰の後ろで腕を組み、俺の顔を見てにこやかな笑みを浮かべている。

「お客さんなんて珍しいねえ。どうぞ、ゆっくりしていらっしゃいな」

俺と澪が起こした一連の小騒動など気にも留めない様子で、婆さんは非常にゆったりとした歩調で店の奥へと歩いていき、やがて一段高くなった座敷に置いてある座布団の上に腰を下ろした。

「び、びっくりした……」

婆さんが座ったのとほぼ同時、今まで黙っていた澪がようやく口を開いた。そして自身の体を俺に預けていることに気付いたのか、電光石火、実に俊敏な動きで後ろに飛びのいた。頼むから売り物を壊さないでくれよ……。


***


「二人とも若いねぇ。高校生かい?」

「あ、はい」

「そうかいそうかい、きっと綺麗な心を持っているんだろうねぇ」

「は?」

「いやいや、こっちの話だよ」

俺と澪はすっかり婆さんの話し相手になっていた。まあ特にやることもないからいいんだが、あまり遅くなると軽音部の連中が心配するかもしれない。適当なところで切り上げないとな。

「あー、そうだ、婆さん。手ごろな値段で買える、この店オリジナルの置物ってないか?」

「どうしたんだ、咲夜?」

「いや、せっかく来たんだから記念にと思ってな。出来れば千円以内で頼む」

目の前にいる婆さんはどこからどう見ても普通の婆さんだ。しかし俺はどうしても店に入る前に抱いたあの違和感が拭い切れていなかった。何かここに来た証拠が欲しい。とはいっても、今月は厳しいからなるべく安いのをお願いしますよ……。

「そうだねぇ、それなら……こんなのはどうかね」

そう言って婆さんが近くにあった小物入れを漁って取りだしたのは――。

「これは……」

「綺麗……」

俺と澪は目の前に置かれた“それ”に一瞬にして心を奪われていた。“それ”はあまりに綺麗で、優雅で、儚かった。

スノードームのような球体の中で、息を吹き込まれたかのように動き回る楽器たち。狭い箱の中でも楽しそうにダンスを踊る姿は、まるで俺たち桜高軽音部を象徴しているかのようだった。

ただ、一つだけ、本当の桜高軽音部とは明らかに違う箇所がある。ドームに浮かぶ楽器は、ベースが一本、ドラム、キーボードが一台ずつ、そしてギターが三本。

そう、ギターが“三本”あるのだ。

桜高軽音部のギター担当は俺と唯の二人。まさかさわちゃんを含めたわけでもあるまいし、これは一体何を意味しているのか。いや、まずこのドームを俺たちの軽音部と重ねること自体が間違っているのだろうか。

隣に視線を移すと、相変わらず澪は目を輝かせて、子供のような無邪気さでそのドームを見つめている。その姿を見て、あれこれ考えるのは止めようと思った。綺麗なものを素直に綺麗と認める、それが何より大事であり、何より難しいことなのかもしれない……なんて、柄にもない詩的なことを言ってみる俺だった。

これだけの感動を俺たちに与えた代物だ。さぞかし値が張る逸品なのだろう。俺が財布の中身を確認しながら恐る恐る値段を聞くと、婆さんは「いいよ、ただで。気にいったのなら持ってっておくれ」と、全く予想外の答えを返してきた。

俺たちは悪いと思いながらも、婆さんの話ではどうやら近いうちに店仕舞いをするとのことなので、素直にその好意に甘えさせてもらうことにした。婆さんは相変わらずにこやかな笑みを浮かべて、俺たち二人を見つめていた。


***


外に出るといつの間にか雨が上がっていた。地面に出来た水たまりに映る太陽の姿は淡くぼやけていて、それがどこか幻想的だった。

「あいつら、きっと喜ぶぞ」

「うん、そうだな」

俺と澪は顔を見合わせ、音楽室で俺たちの帰りを待つ仲間の驚く顔を想像しながら微笑み合うのだった。





***


後日、楽器屋に預けた澪のベースを引き取りに行ったときのこと。

朝、テレビで気象予報士が言っていたことには、この日の天気は曇りのち晴れ。しかしどうやら予報は外れたらしく、午後三時を回っても空は一面水蒸気の固まりに覆われており、何なら雨でも降り出すんじゃないかと思わされるほど不安定な空模様であった。

そんな天候であるから、俺と澪は(実際は俺だけだが)前回の教訓を生かし、しっかりと傘を二本用意して学校を出た。澪がなぜだかつまらなそうな顔をしていたが、その時の俺にその理由が分かるはずはなかった。

二人並んで学校から楽器屋までの道を歩く。道中何一つ変わったことはなく、軽音部のこと、楽器のこと、高校に入って初めて受けた中間テストのこと、そんなたわいもない話題に花を咲かせながら歩いているとあっという間に目的地へと到着し、無事澪のベースを引き取ることが出来た。

悪いから、と言って遠慮する澪から無理矢理ベースを奪い取り背負って歩く。女の子に重い荷物を持たせるのは俺の主義に反するからな。

「そういえば、あのお店まだあるかな?」

店を出てしばらく歩いていると、澪があの店のことを話題に挙げた。あの店とはもちろん、ベースを預けた日の帰り道にスノードームをもらった店のことだ。あのドームは唯も律も紬も大変気に入ったらしく、音楽室の目立つ所に飾ってある。

「ああ、そういや閉店するとか言ってたっけ。まだ残ってたらお礼でも言っときたいな」

こくり、と澪が一つ頷く。俺が冗談混じりに「もう死んでるんじゃないか?」と口にすると、澪は「不謹慎だぞ」と優等生らしい真面目なツッコミを入れてくれた。

そんな他愛もないやりとりを続けていると、見覚えのある景色が視界に入ってきた。ここは紛れもなく、あの雑貨屋がある通り。しかし、遠くからでも一目見れば分かるくらい目立つ外装のあの店を見受けることは出来なかった。それでも一縷の望みをかけて、店があるだろう場所に近づいて確認してみることにした。

「遅かったか。もう閉店して――」

ある程度店に近付いて……俺は声を失った。気付いてしまったのだ、目の前で起こっている「奇怪」に。あのとき覚えた違和感が、頭の中で明確にリフレインされる。

確かにあの婆さんは「閉店をする」と言っていた。しかし、これは明らかに“閉店”の類で済まされる話ではない。なぜなら、そこにあったのは──

「な、なあ、咲夜、これって……」

隣にいた澪が俺の腕にしがみついている。その声と体は恐怖に震えていた。

「ああ……」

目の前に広がる荒廃した大地。その中央に忘れられたようにぽつんと立っていたのは、一つの──――墓。

あまりに衝撃的な出来事に、冷静な思考が出来ないでいた。しかし、今目の前で起こっているのは紛れもない現実。

「あのお婆さん、ゆ、ゆうれ……」

澪がぼそっと呟きかけた単語。普通なら現実味を帯びない馬鹿げた推測も、この状況では受け入れざるを得ない。周囲の建物と調和しない店の出で立ち、醸しだされた形容しがたい違和感、そして俺たちの軽音部にお誂え向きの置物を持っていて、しかもただで渡したこと。全てを説明するには、そう考えるのが最も自然だった。

とにかく、怖いものが何よりも嫌いな澪がこの場に長くいるのは酷だ。そう考えた俺は、未だ俺にしがみ付いている澪の腕を取り、その場を去ろうと足を踏み出そうとした。

「咲夜」

しかし、澪はその場から動こうとしない。それどころか、俺の目を真っすぐに見つめて、凛とした顔立ちでこう告げた。

「お花、お供えしよう?」

あの人一倍怖がりで泣き虫な澪が、必死に恐怖を抑えつけながら花を供えようと言う。きっと今も足はガクガクで、本当なら逃げ出したい気持ちでいっぱいのはずだ。それでも、あの日一度だけしか会っていない婆さんに感謝したいという想いが優先するのは、実に澪らしいと思った。素直で実直で、いつでも人のことを考えて行動できる。そんな澪だから、俺は好きになれる。

俺の顔からは自然と笑みがこぼれ、二つ返事でその提案を受け入れた。空を覆っている灰色の雲間から、一筋の光が地上に差し込んだ。


(終)





【あとがき】


お久しぶりです。かなり間が空いてしまいましたが、二期が始まったということでまたけいおんSS更新再開することになりました。今後ともよろしくお願いします。

さて、今回は二枚同時更新となります。一枚目のこちらはちょっとファンタジックなテイストを目指して書いてみました。なかなかイメージしにくかったらごめんなさい。

ストーリー重視にしたのであまり甘くはないです。同時更新の「シンデレラ・パニック!」は少し甘いと思うので、糖分を欲している方はそちらもぜひご覧ください。では、そちらの方でまたお会いしましょうノシ
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