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『けいおん!』リクエストSS・番外編「大好きを歌うよ」

「軽音部の紹介ビデオを作ろう!」
期末試験と夏休みの間に存在する、午前中で授業が終わったり蒸し暑い体育館でどっかからやってきた偉い人のお話を聞いたりするあの一週間。その中盤に差しかかったある日の放課後、音楽室でいつものように行われていたティータイムのゆったりとした雰囲気をぶち壊したのは、急にイスから立ち上がってわけわからんことを叫んだ田井中律だった。
「いきなりどうしたんだよ。この暑さで頭がおかしくなったのか?」
「澪、それは元々だろ」
「おいサク!」
澪と咲夜の小馬鹿にした態度に、律が怒りの声を上げる。二人の態度はかなり失礼な部類に入るが、律が普段取っている行動に鑑みれば、そんな態度に出るのも仕方のないことかもしれない。
声を荒げた律はこほんと一つ咳払いをして、息を整えたあと再び話し始める。
「前に新歓用のビデオを撮ったことがあっただろ?」
「あ、あのグダグダになったやつだね!」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
自分のことを棚に上げてあははと笑っている唯に怒り心頭の律。さっきから一台詞ごとにちゃちゃが入るので、話が全く進まない。
「あー、このままじゃ埒が明かないからちゃんと聞こうぜ?」
そんな状況を見かねた咲夜が場を纏める。話を円滑に進めようとするのは主人公として正しい姿勢であり、評価してあげたい。
「ったく……。で、私たちは来年卒業だろ? つまり、来年新入生が入ってこなかったら、軽音部は梓一人になってしまうわけだ」
律が真面目な口調で話を始める。いつになく部長っぽいその語り口に、先ほどまでふざけていた(当人はそう思っていないだろうが)咲夜たちも真剣に話を聞いている。
「だから、来年はちゃんとした部活紹介ビデオを作って新入生を大量にゲットする。そうすれば我らが放課後ティータイムの将来は安泰なわけだ!」
律の力説に耳を傾けていた軽音部の面々はおおー、と歓声を上げながらパチパチと拍手する。律は「私イカしてるだろ」みたいなドヤ顔でその喝采を全身で受け止めていた。
「じゃあ俺がカメラマンやるか」
「え、咲夜は映らないのか?」
「俺が映ったらせっかくの華やかさが台無しだろ? こういうのは女子だけの方が釣れるんだから」
「釣るって、サク先輩……」
「むしろサクが映った方が女の子集まりそうだけどな」
うんうんと頷く咲夜以外の面々。付き合いが長いといっても、やはり可愛い女の子からそういう反応を返されるのは歯がゆいらしく、咲夜は頭を掻きながら少しだけ照れている。
「いいんだよ俺は。そういうの向いてないし。どうしてもって言うなら、動画の最後に『超監督:藤川咲夜』とか入れといてくれ」
「どういう意味ですか?」
「いや、特に意味はないけど」
相変わらず無駄にオタクな知識を持っている咲夜。休日に家で一日中パソコンいじってるような人間だからそっち系の事情にも強いのだろう。
「じゃあ早速とりかかろー!」
『おーっ!』
唯の元気一杯な掛け声に続くその他の部員たち。そんなわけで『第一回・桜高軽音部?ドキッ!女だらけの大ビデオ撮影会 in summer(仮)』の幕が上がった。


Scene1.平沢唯
「じゃあまずは唯な……って、あれ? あいつどこに」
「ふんす!」
「うおっ!?」
咲夜の構えていたビデオカメラの下から、奇妙な効果音とともに唯が飛び出した。もちろんカメラには唯の顔がどアップで映し出される。
「いきなり変なところから現れるな!」
「えへへ、さっくんのことおどかそうと思って♪」
「……まあいい。ほら、早くあっちいって準備しろ」
「は?い!」
驚かされた咲夜は唯を叱りつけようとするが、唯の浮かべる無邪気な笑顔を前にするとそんな気も削がれるらしい。手であっちいけとジェスチャーして投げやりな様子を見せているが、それはただの照れ隠しにすぎない。
「……甘いな」
「甘いですね」
「サクは天然な女に弱い、と……」
「そうだったんだ……」
「お前らうるさいぞ! 喋ってないで撮影の準備しとけ!」
「へーい」
言われたい放題の咲夜。自身の性癖まで分析され形無しだ。
「ったく……。じゃあ唯、フリップ持ってそこに立って」
「もう立ってるよ?」
「お、悪い。じゃあ撮るぞ……。しかしあれだな、唯のフリップは随分と可愛らしいな」
「でしょ?? 頑張って可愛らしくしてみました!」
「ああ、可愛いよ、唯」
「えへへ、さっくんに褒められた?♪」
咲夜は唯の頭をなでなでする。途中から「可愛い」の被修飾語を省いているせいで「リア充爆発しろ」みたいな空気を醸し出しているが、何のことはない、ただ唯の描いたフリップが女の子らしく装飾されていて可愛いという会話をしているだけだ。
「……バカップル」
しかしその様子を二人がイチャイチャしていると解釈した澪は冷たい視線で二人を睨んでいる。二つ名を付けるとしたら「氷の魔女」がいいかもしれない。
「せ、先輩、顔が恐いです!」
「お、落ち着いて、澪ちゃん」
「サクも天然だからなぁ……」
そんな嫉妬の炎をメラメラと燃やしている氷の魔女をどうにか落ち着かせようとする梓、ムギ、律。撮影会は一人目の前半から既に前途多難なようだ。

「じゃあ最後に『私はギターやってます』アピールだな。ギー太で適当になんかやってくれ」
「了解であります!」
使うかどうかわからないカットを適当にいくつか撮ったあと、このビデオのメインともいえるギター演奏シーンの撮影に突入する。咲夜の指示に唯は敬礼ポーズなんかしちゃってやる気満々だ。何か考えがあるのだろうか。
「じゃあ撮るぞ。3,2,1……」
カメラを構えた咲夜が手でキューサインを出す。そして……。
「私の相棒のギー太です!(ジャジャーン!)」
極上の笑顔と共に、両手でギー太を自分の前に掲げる唯。因みに「ジャジャーン!」というのはギターをかき鳴らす音……ではなく、漫画とかで何か物を取りだしたときに添えられる効果音を比喩したものである。つまり唯はギターを全く弾いていない。
「いや、見せるだけじゃなくて弾けよ!」
「えー、だってみんなにギー太の姿をちゃんと見てもらいたくて……」
「だからってギターかざすだけはなぁ……。一応軽音部だし、やっぱり弾くふりでもいいからした方がいい気はするが……」
「……だめ?」
唯は祈りを捧げるシスターのような格好をしながら、瞳を潤ませて上目遣いで咲夜を見つめている。このコンボは反則級で、弱パン→強パン→必殺技の三連コンボを食らった咲夜は瀕死状態だ。
「う……ま、まあ、今回だけ特別だぞ」
「やったー! さっくん大好き?!」
「うわ、いきなり抱きつくな! 危ないだろ!」
唯のコンボに屈した咲夜がそのままでいいと了承すると、それに喜んだ唯が咲夜に勢いよく抱きついた。文字面だけ見ると魔性の女みたいにとられてもおかしくない行動だが、これを素でやっていることはけいおん好きの皆様ならご理解いただけるだろう。
そしてそんな天然バカップルを遠目で見ていた残りの女子の反応は……。
「(ブチッ!!)」
「み、澪さーん? なんか今すごい音しましたけど……」
「完全に怒りMAXですね……」
音楽室を焼き尽くすんじゃないかってくらい嫉妬の炎を燃やし続けている澪と、もはや説得するのは不可能だと一歩引いている他三人。氷の魔女から炎の魔女に改名した方がいいかもしれない。
「さ、咲夜さん。つ、次の人いきましょう?」
「ん? ああ、そうだな」
自分がこの騒動の引き金になっていることに全く気付いていない天然な咲夜は、ムギの促しによって唯の撮影会を終え、次の人物の撮影会を開始した。


Scene2.田井中律
「次は律か……」
傍目にも分かるくらいやる気のない口調で咲夜が言う。
「なんでテンション下がるんだよ!」
「いや別に。何となく」
「テンション下がってることは否定しないのな……」
ぞんざいな扱いを受け、険しい表情をする律。普段は男っぽい律だが、こんな風に男子から興味なげな態度をとられると乙女心が傷つくようだ。
「別に唯の時もそんな上がってないって。ほら、早くスタンバって」
「はいはい……ニコッ☆」
咲夜がカメラを構えた途端、不機嫌そうだった律の顔が満面の笑みに変わる。どこぞのヤック・デカルチャーみたいな語尾を付け、まるで気分はアイドルだ。
「凄い営業スマイルですね……」
「さすが律だな……」
その変わり身の早さに、梓と澪は苦笑しながらも感心している。
「どうでもいいけど律、字汚くないか?」
「悪かったな」
「あ、元に戻った」
咲夜の暴言に再びしかめっ面へと変容する律。その様子はまさに一人百面相だ。
「りっちゃんって演技派ね?」
「いや、違うだろ……」
そして一人このやりとりをなんだかすごく肯定的に解釈しているムギに、澪が呆れながらツッコミを入れた。ムギのポテンシャルもなかなか高いように思えるのは僕だけだろうか?

咲夜がドラムセットに座っている律へカメラを構えて言う。
「後はドラム叩くシーンだな」
「はいはい、どうせ撮ってて楽しくなさそうだからちゃっちゃと終わらせるかな?」
「完全に拗ねちゃってますね」
「まあ、テンション上げない咲夜も悪いと思うけどな」
結局ローテンションのまま撮影を進める咲夜に、律の機嫌はますます悪くなっていく。この主人公、自分が興味ないキャラクターは攻略しない主義らしい。とことん夢小説に向いていない主人公である。
「……なあ、律」
「何だよ」
もはやフラグバキバキの律ルートだが、ここで咲夜が思いがけない言葉を発することで、一握りの希望が見えてくることになる。
「髪下ろさないのか?」
「は? 何で?」
何の脈絡もなく自分の髪型に注文を付けてきた咲夜にきょとんとする律。
「下ろした方が可愛いと思うんだけどなぁ」
「……な、何言ってるんだよ、急に」
「あ、動揺した」
律は咲夜から目をそらす。あまり容姿を褒められることがない律だから、いざ男性に可愛いとか言われると非常に弱いのだ。
「いや、この前のクリスマスんとき髪下ろしてただろ。俺、結構好きだぞ、あの髪型」
「な、なななな……!」
「あ、沸騰した」
「りっちゃん顔真っ赤?」
そして突然の告白を経て、ついに律の顔は熟した林檎のように真っ赤に染まった。口を意味もなくぱくぱくさせて動揺している姿は、恋に恋する女の子そのもので実に可愛らしかった。
「い、いきなりそういうこと言うなーー!!」
律は照れ隠しにドラムをバカスカ叩き始める。分かりやすすぎて全く照れ隠しになっていないのだが、そんなことを気にしていられるほど本人に余裕はなかった。
「凄いわ、りっちゃんのスティック捌き!」
「ど、どうした律、急にプロ並の演奏を始めたぞ!?」
「わかりやすいやつ……」
相変わらず朴念仁な咲夜は律の異変の原因に気付くことはなかったが、普段の数倍いい演奏をする律を見てこれはチャンスだと、とりあえず律の体力が切れるまでカメラを回し続けた。


Scene3.琴吹紬
「次は紬だな」
「よろしくお願いします!」
咲夜が構えたカメラの下からフェードインしてくるムギ。まるで数十分前の光景を繰り返しているようだ。といってもエンドレスなんたらではない。
「うお!? まさかの唯と同じ登場の仕方! 紬もなかなか軽音部に毒されてきたな……」
「どーいう意味だ」
「どーゆー意味だー!」
「そのままの意味だ」
ムギを毒した元凶の二人が声を揃えて反応してくるが、咲夜はそれを軽くあしらう。
「えっと、これからどうすればいいですか?」
「あー、そうだな……。まあ、フリップ持ってポーズとって、キーボード弾いてくれとしか……」
「何か面白いことはしなくていいですか!?」
食い気味で迫ってくるムギにたじろぐ咲夜。前者二人がなかなか面白いボケをかましてくれたので、自分も何かやりたいと熱くなっているのだろう。そういうところはムギらしいかもしれない。
「な、なんか今日はやけに積極的だな……。面白いことって、例えばどんなのだ?」
「マンボウとk」
『絶対やらなくていい!』
咲夜どころかその場にいる全員に全力で否定され、ムギはおろおろしている。おそらく理由が分かっていないのだろう。
「そ、そうですか?」
「ああ、紬にはこの軽音部の良識人の方でいてほしいんだ」
「どーいう意味だ」
「どーゆー意味だー!」
「そのままの意味だ!」
良識人じゃない方の二人が声を揃えて反応してくると、咲夜はそれをちょっと強い口調であしらう。さすがに天丼は面倒くさかったらしい。
余談だが、この後結局ムギの意向を尊重してマンボウのカットが使用されることとなる。ただそれも一瞬のカットでしかも途中で止められているという中途半端なものだが。因みにムギのシーンだけやけに短いのは……察してほしい。そして全国のムギファンの皆様に心からお詫び申し上げます。


Scene4.中野梓
「よし、梓撮るぞ」
「はい」
あずにゃんの撮影会ということでちょっとテンションの上がる咲夜……もとい、作者。さて、何をしてやろうか……と、いかんいかん、心の声が漏れてしまった。
「梓はやっぱり水槽の前で撮った方がいいかな。トンちゃん映るし」
「“私=トンちゃん”のイメージってそんなに定着してるんですか……」
アニメ版二期の第二話で突如登場したトンちゃん。今ではすっかり準レギュラーの座を獲得し、軽音部のマスコットキャラクターとして欠かせない存在にまで成長した。文化祭で発表する新曲の歌詞案にトンちゃんのことを書くあたり、梓もなかなかトンちゃんにご執心なようだ。
「まあ、そこまででもないけど一応な。てか梓、ネコミミ付けないのか?」
「付けませんよ!」
「“梓=ネコミミ”のイメージはもはや世界共通の認識だというのに……」
激しく同意。“梓=トンちゃん”の図式は成立しなくても、“梓=ネコミミ”の図式は揺るぎなく成立するのである。
「どこの世界の認識ですか!? 嫌ですよ、こんな大勢の人に見られるビデオでネコミミなんて……」
最近はネコミミを付けることにほとんど抵抗がなくなってきた梓だが、やはり見知らぬ人にネコミミ姿を見られるのは恥ずかしいらしい。そんな梓の背後に、ゆっくりと忍び寄る魔の手が……。
「えいっ!」
「にゃっ!?」
唯にネコミミを被せられ、変な悲鳴を上げる梓。唯選手、ナイスアシストです!
「おお、唯よくやった! さあ梓、そのままむったんを華麗に弾いて見せ」
「ません!」
『えー……』
失望と軽蔑の眼差しで音楽室にいる全員が梓を見つめる。そりゃあもう、ギー太やエリザベス、果てはむったんまで見つめている。
「なんで満場一致でブーイングなんですか! 真面目にやらないと今年も新入生入って来ないですよ!?」
そんな先輩たち(+楽器)の態度を不真面目だと捉えたのか、梓は一人憤慨している。だが、何も先輩たちはふざけているわけではない。梓は大きな勘違いをしているのだ。
「わかってるよ。だからこそ梓のネコミミ姿が必要なんじゃないか」
「そうだぞ梓。梓の可愛さに釣られて入部したいと申し出る男子高校生が一体何匹いることか……」
「匹はやめろ匹は」
「『あずにゃん先輩! 俺にギターを手取り足取り教えてくださいッス!』」
「青春ね?」
「もの凄くどす黒い青色な気がするのは私だけか?」
「あずにゃん先輩……」
「いや、梓も照れるなよ! あと反応するところ違うだろ!」
そう、梓がネコミミを装着することによって可愛さが百倍ほど増し、それによって入部希望者が増えるだろうという綿密に計算された末の行動だったのだ。決してネコミミが見たいがために後付けした理由ではない。あと澪さん、さっきから軽快なツッコミ飛ばしまくりです。
「な、梓が今ここでネコミミを装着してビデオを撮るのは可愛い後輩のためなんだよ。だからいいだろ?」
「はい……」
「洗脳された!」
説明しよう、梓は先輩という言葉にめっぽう弱いのだ。
「………………はっ、私は一体何を!」
「元に戻った!」
しかし、ネコミミを付けたくない思いがよほど強かったのか、はたまた俺のバトルフェイズがターンエンドしてしまったのか、梓の洗脳はいとも簡単に解けてしまった。
「や、やっぱりいやです! 普通に弾きたいです!」
「くっ、あと少しだったのに! 洗脳が解けてしまったか……」
「その台詞、どう聞いても悪役のだよな」
梓がネコミミを付けてくれるなら、咲夜は悪にでもなるのだ。
「……仕方ない、普通に撮るからスタンバってくれ」
咲夜その他諸々の洗脳も虚しくネコミミの装着を拒否した梓の撮影会は、結局無難な感じでまとまった。……ごめんなさい、熱意はあったんですが、作者の力量が足りなかったせいです。


Scene5.秋山澪
「ラストは澪だな」
「わ、私は演奏してるところだけでいいぞ」
「えー、何でだよ」
澪の発言に不満を漏らす律。
「だ、だって、ネコミミ付けてポーズなんて恥ずかしくて出来るか!」
「いや、ネコミミは私だけですよ」
「緊張して頭が回ってないみたいね……」
「うーん……」
人前に出て目立つことが得意ではない澪。高校へ入学して二年半が経った今でも、人見知りの症状はなかなか改善されていないようだ。
そんな澪の様子を見て、どうにか出来ないものかと頭を働かせ……咲夜は一つの案を思い付いた。
「よし、じゃあ澪が演奏してる間に誰かがフリップ持って紹介する、みたいな感じでいくか。それならいいだろ?」
「う、うん。まあそれなら……」
「よし、じゃあ撮るぞー」
澪から了承を得たので咲夜の案を採用することにし、とりあえずそれに沿って一通り撮ってみた。しかし……。
「うーん……」
「どうした、律?」
「いや、いまいち面白くないなー、と思って」
確かに、撮った内容はベースを弾いている澪の前に律とムギが現れてフリップを出すという実に味気ないものだった。
「そうか? まあ確かにベース弾いてるだけだが……面白さを求める必要もないだろ」
「そんな考えじゃ駄目だ! 私たちは一人でも多くの部員をゲットしなきゃいけないんだぞ!」
テーブルをバン!と力強く叩き熱弁を奮う、いつになくやる気な律。テーブルを叩いたあと「いたたた……」とか言わなければ非常にカッコいいのだが、そこは突っ込まないであげておこう。
「……ともかく、そのためには澪の力が必要なんだよ!」
「な、なんで私なんだよ?」
「そりゃあ、軽音部で澪が一番人気あるからだよ」
「そ、そんなこと……」
「確かに、ファンクラブがあるくらいですもんね」
「澪ちゃん可愛いもの?」
「そうだね?」
うんうん、と皆で頷いて納得する。必死で否定しようとする澪だが、数の暴力に負けもじもじと居心地悪そうに体を揺すっている。
「そう、そこなんだよ!」
再び熱弁を奮う律。前の失敗を学習してテーブルは叩かない。
「今のPVじゃ澪の可愛さを十分に生かしきれていない!」
「いつの間にPVになったんですか」
こんなにスペックの高い女子高生が自分たちでビデオ撮影ですよ? もちろん、最初からです。
「じゃあどうするんだ? 澪の可愛さを生かすって……はっ、まさか!?」
そこまで言って何かに気が付いた様子の咲夜。先ほどまでの冴えない表情が、一瞬で希望に満ちてくる。
「ふふふ、そのまさかだよ咲夜君」
「まさかそんなことを考えるとは、お主も悪よのぉ……」
「いやいや、咲夜様には敵いませんよ、へっへっへ」
深い会話はないが、この余裕な感じからしてお互いに考えていることは同じなのだろう。しかしこの二人、ノリノリである。
「と、いうわけで……」
「ああ」
怪しい目つきと手つきでじわじわと澪に近づいていく咲夜と律。その迫力に気圧され、澪はじりじりと壁際に追い詰められていく。
「な、なんだよ……」
澪の体が壁にトンと触れる。それを合図に、二人は澪へ飛びかかり……!
「確保ーーーーーーーっ!!」
「イエッサー!」
「キャーーーーーーッ!?」
いつぞやの梓よろしく、澪の身柄は確保されました。

咲夜と律に確保され別室に移された澪は、律の手によって立派なメイド様へと変身を遂げてた。
「ううううう…………」
『萌え萌えきゅんっ!』
半泣きになりながら両腕で自分の体を抱き、メイド姿をなんとか隠そうと奮闘している澪。そんな姿も萌え要素の一つとなって、音楽室にいる全員が懐かしの萌え萌えキュン状態になっている。
その後メイドコスでベースを弾いている姿を存分に撮影された澪は、精根尽き果てた顔で地面にへなへなと倒れこんだ。
「うう、もうお嫁に行けない……」
「大丈夫だよ、俺がもらってやるから」
「さくやぁ……」
澪の頭をぽんぽんと叩いてさらりと爆弾発言をする咲夜に抱きついて甘える澪。その光景を生温かく見守っている他のメンバーは一様に、
『(バカップル……)』
と心の中で呟いたそうだ。


個人撮影が終わったあとビデオの概要について突き詰めていくと、やはり軽音部なのだから音楽に合わせて紹介していくのがいいだろうという結論に落ち着いた。そしてその音楽は、ムギが持ってきたとあるガールズバンドの曲にあっさりと決まった。咲夜ですら名前くらいしか聞いたことのないマイナーバンドの曲だったのでムギが知っていたことにみんな驚いていたが、研究熱心なムギのことだ。放課後ティータイムの曲を作るに当たって色々なバンドの曲を聴き比べたりしていたのだろう。
ともかく楽曲はトントン拍子に決定したが、それだけではインパクトが足りないとまたも律が吠え出した。熱心なのはいいことだが、正直勘弁してほしいと咲夜や澪を筆頭に内心思っていた。
「じゃあどうすればいいんだ? 今度は水着で撮影でもするのか」
投げやりな態度で咲夜が茶化す。それはそれでありだと……いや、何でもありません。
「ふふふ……何を言っているんだね咲夜君」
再び笑いを浮かべる律。しかしその顔はあくどい笑みではなく、つまらないギャグをかました咲夜を嘲る笑みだった。
「そこまで言うってことは何か名案があるんだよな? 言ってみろよ」
その律の態度にむっとした咲夜は、噛みつくように問いただした。
「私たちは軽音部だぜ?」
咲夜の強気な詰問にも臆することなく、律は口を大きく開き、そして言う。
「――演奏するしかないじゃないか」



♪延々続行 ルララ Miracle Sing Time――
「しかし、よくこれだけのギャラリーを集められたよな……」
楽器の爆音と黄色い歓声が飛び交う雑踏の中で、俺はカメラを回しながら一人呟いた。
♪歌って 歌って 愛伝える最強手段――
「おっと……」
携帯をマイク代わりにして歌う唯が音楽に合わせて回る可愛らしい姿を逃さぬよう、俺は意識をカメラへと戻した。

「演奏……って、この曲をか!?」
最初は何の冗談かと思った。
「それ以外に何があるんだよ?」
受験勉強に、文化祭の準備に忙しいのに、これ以上練習する曲を増やすなんて。しかも市販の楽譜がない曲を。
「……覚悟はあるんだろうな?」
俺は五人の演奏者の顔を一人一人見つめ、低い声で静かに告げる。しかしわざわざ問いただすまでもないことは重々承知していた。伊達に三年間一緒に過ごしてきたわけじゃないんだ。
それから練習の日々が始まった。終業式が終わり夏休みに突入した俺たちは毎日音楽室に集まり、朝から晩まで、時には勉強を教え合いながら、時にはお茶を飲みながら、二週間みっちり演奏の練習に費やした。本当に“時には”の頻度だったのかは……まあ察してくれ。
そんな特訓の成果もあり、みんなの演奏はなんとか人に見せられるレベルにまで到達した。ひとまず第一関門はクリアーである。
しかし次にそびえる第二関門、こいつがまた某筋肉番組のそりたつ壁くらい曲者だった……と思っていたのだが、実は案外簡単に突破してしまった。
その関門とは「観客集め」。俺たちの頭には、放課後ティータイムの演奏に合わせて客が腕を振り上げたり踊ったりしている映像が描かれていた。そのため、エキストラ的存在を少なくとも十五人くらいは集める必要があったのだ。
俺たちは音楽室で出来る程度のミニライブを計画し、ポスターや口コミで告知・宣伝した。学校に来る必要のない夏休み、客が集まらないのは目に見えていた。俺たちは一人でも多くの客が来てくれるようにと、神にも祈る思いで当日を待った。
そして来る八月上旬、放課後ティータイム・夏休み特別ミニライブは開催された。

「凄いな。軽く四十人は超えてるぞ」
十五人を超えれば上出来だったミニライブ、蓋を開けてみれば目標の三倍近くを集客する大盛況を見せていた。音楽室の前半分が完全にステージと観客で埋まり、気分はまるで小さなライブハウスだ。三年間の活動を通して「放課後ティータイム」の名もそこそこ校内に知れ渡ったと誇ってもよいだろう。
「あいつらも、いい表情してるな……」
レンズ越しに演奏している仲間を見つめる。みんな笑顔で気持ちよさそうだ。恥ずかしがり屋の澪でさえ、撮影されていることなどすっかり忘れライブを楽しんでいるようだった。
ここまでのライブを開催することが出来て、特訓を指導した俺としてはとても鼻が高いし、これ以上嬉しいことはない。しかし同時に、俺は少しだけ寂しさを感じていた。今回徹底して裏方に回り尽力した俺だが、それには理由があった。もちろん冒頭で述べたのも理由の一つではあるが、それ以上に「放課後ティータイム」を女の子五人のバンドとして記録に残してやりたかったのだ。元々俺は入部した時から傍観者Fとか名乗っていた異分子だし、きっと俺がいなくても放課後ティータイムは成り立つ。俺と彼女らの間には、どんなに仲良くなろうとも割ることの出来ない、男女の差異が創り出す透明な仕切り板が挟まっているように感じた。それはこのライブシーンを撮る前に撮ったあるシーンを見ても明白だった。
このライブシーンはビデオで使用する他の全てのシーンを撮り終えてから撮っているのだが、この曲の最後の歌詞に合わせたシーンを撮るのが、ある意味一番見ていて辛かった。誰が考えたのか、女の子が女の子に抱きつくというよく分からないカットを撮ることになったのだ。女の子同士が抱き合っている姿をカメラに収めるというのは、それはもう色々と怪しい妄想を掻き立てられるもので、年頃の男子高校生にとってはある意味拷問ともいえる所業なのだ。そして俺はこの時に、彼女たちとの壁をはっきり認識してしまったのである。
「……と、そんなこと考えてる場合じゃないな。集中、集中……」
あれこれ考えているうちに曲は終了してしまっていた。これ以上撮る必要はないのだが、せっかくの機会だしカメラは回し続ける。唯のMCが少し入ったあと、律のカウントで『ぴゅあぴゅあハート』の演奏が始まった。

「終わったな……」
観客の撤収を終えた後、俺たちはいつものようにテーブルを囲み、紬が用意したお茶とお菓子でティータイムを楽しんでいた。自分が演奏したわけでもないのに、俺の心は非常に充足感に満ちている。俺でさえこれなのだから、実際に演奏していた彼女たちはどれだけ満足しているのか、それは推して知るべしである。
「まだ終わってないよな、みんな?」
すっかり完全燃焼モードだった俺に、律がよく分からない声を掛ける。その声にニヤニヤしている五人……訂正、ニヤニヤしている四人+もじもじしている一人(澪)。もの凄く嫌な予感がするのはおそらく気のせいではないだろう。
「な、なんだよ」
俺は反射的にイスから立ち上がり、音楽室の扉の方へと逃げていった。しかしそこにはいつ移動したのか紬が立っており、お嬢様スマイルを浮かべながら「逃がしませんよ♪」という含みを持たせた視線で俺を見ていた。
逃げ道を塞がれた俺を取り囲むように、唯、澪、律、梓の四人がじりじりと近づいてくる。俺の脳裏には先日撮った“あのシーン”が浮かんでいた。しかし、何かが引っ掛かる。あれ、実は俺、もっと前に“同じようなこと”を体験していたんじゃ……。
「……! 思い出した! あれは一年の……」
俺が“あの日”のことを思い出したのと同時、五人は一斉に俺へ向かってダイブしてきた。女の子特有の柔らかい感触と甘い香りが俺を包み込むが、俺はもはやあの時のヘタレな俺ではない。これくらいで動揺すると思ったら大間違いだ!
「そう、俺は三年間の学生生活を経て、心も体も成長したんだ!」
「い、いきなりどうした?」
突然大声で意味不明なことを叫び出した俺にびくりとする澪。そう、俺は澪のおかげで心も体も……これ以上は本編に関係ないから自主規制しておこう。
「つーか、何でいきなり抱きついてくるんだよ」
俺とお前らの間には越えられない仕切りがある。それは嫌というほど分かっているはずなのに。何でお前らは、俺を傍観者の立場から引きずり降ろそうとするんだよ?
俺が投げかけたその問いに答えるように、澪が俺の腕にしがみつきながら頬を赤く染めて、でも真っすぐに俺の瞳を見つめて言う。
「さ、さくやだって『放課後ティータイム』のメンバーだろ!?」
「そうだぞー。一人だけ遠くで見てるだけなんて許さないからな!」
澪の言葉に律が続く。他の三人も言葉は発しないけれど、思っていることは同じなようだ。
「俺も、放課後ティータイムの……」
澪の言葉は俺の心に痛いほど突き刺さった。俺を放課後ティータイムのメンバーとして認めてくれている。それは凄く嬉しいことなのだが、同時に俺は今までそう思ってくれていた彼女たちを裏切っていたのではないかという自責の念に駆られる。
「はは」
「どうした、咲夜?」
自嘲と嬉々の混在する俺の笑い声を聞いて、澪が首を傾げる。
「いや、可愛くて気立てのいい女の子に囲まれて俺は幸せ者だな、と思ってな」
彼女たちの強い想いに、ついそんなことを口走ってしまう。こんな恥ずかしい台詞を口にするなんて……
『柄にもない、かな?』
「は?」
俺が今まさに言わんとしていた台詞を皆に言われ、俺はきょとんとしてしまう。そんな俺の間抜け面を、五人の少女はしてやったりといった顔で見ている。
「三年間一緒にいて気付かないとでも思ったか?」
「二年間でも気付きますよ?」
「私でも気付くよ??」
「唯ちゃん、それは自慢になってないわよ?」
「ふふ、咲夜の口ぐせ、だもんな?」
「…………」
俺と彼女たちの間に仕切りがあると思ってたのは、やはり自分だけだったらしい。いや、もしくは彼女たちがハンマーか何かで仕切りを叩き割ったのかもしれない。そう考えると、今の今まで疎外感がどうたらで悩んでいた俺はただの馬鹿だったことになる。
「まあ、馬鹿でもいいか」
こんなにも俺のことを理解し、信頼してくれる女の子が身近にいる。それだけで、人生勝ち組なんじゃないか。そんな風に思えた。
「よし、今日はライブ成功祝いに美味いもんでも食べに行くか! 俺のおごりで!」
「お、急にどうした? 柄でもない」
「いや、そう使うと俺が守銭奴みたいじゃねえか!」
「違うんですか?」
「あずにゃん、言うようになったね?」
「二年間一緒にいれば、先輩のことはお見通しですよ!」
「素敵だわ?」
「何が素敵なのかよく分からんが、とにかく任せとけ!」
「だ、大丈夫か、咲夜? 今月の生活費とか、危ないんじゃないか?」
「あー……まあ、何とかなる、だろ……。ピンチの時は澪、任せた!」
「へ、何を?」
「俺のために食事を作ってくれるとありがたい」
「な、ななななななな…………!?」
「お、プロポーズか??」
「ひゅ?ひゅ?!」
「素敵だわ!」
「ムギ先輩、顔がキラキラしてる……」
「お、お前ら茶化すな! さ、咲夜も違うってちゃんと……」
「ん、俺は本気だけど?」
「なあっ…………!!」
そんな馬鹿騒ぎをしながら、俺たちは音楽室を後にする。こんな風にみんなで笑っていられるのもあと半年だけだと思うと、少し胸の奥が苦しくなったりもする。だからといって落ち込んでいくのは俺の柄じゃない。月並な言葉だけど、今しかできないことをしよう。そして、今しか作れない思い出をたくさん作ろう。廊下を笑いながら走っていく同じバンドのメンバーを見ながら、俺は心に誓った。


大好き 大好き 大好きをありがとう
歌うよ 歌うよ 心こめて今日も歌うよ
大好き 大好き 大好きをありがとう
歌うよ 歌うよ 愛をこめてずっと歌うよ

『Utauyo!!MIRACLE ‐ 放課後ティータイム』


(終)





【あとがき】
過去作品との繋がりを結構混ぜ込んだので、なんか最終回見たいになっちゃいました(笑)。むしろこれを最後に持ってきた方がよかったんじゃないかって気はしますが、かなりお待たせしてしまったので、自主的に書いたやつですがリクSSが書き終わるまでの間に合わせ程度にお読みいただければ幸いです。
SSはかなり久々に書いたので完全に書き方を忘れていました。ただ、もちろん何もしていなかったわけではありません。ちゃんと友人の友人(マイミクのマイミクみたいな)から貰ったオオカミさんを読んで勉強していました(笑)。そのため、若干「だ・である体」と「です・ます体」が混ざっていますが、それはおそらく「○○○パニック!」シリーズでも同じだったと思われるので見逃して下さい。ギャグを書こうとするとどうしてもです・ます体を使いたくなっちゃうんですよね。そっちの方が表現の幅も広がるし。
そしてこの長さ。間違いなく僕が(オリジナルも含め)今まで書いたSSの中で最長です。後書き抜いて約13000文字ですから、400字詰め原稿用紙で32枚分くらいですか。まあ長いからいいってわけでもないですが、今回の作品は自分では割と気に入っています。やはりまずは自分で自分の作品を気に入らないと駄目ですよね。そういう点では、前々回の梓短編はちょっと微妙だったかなと思っています。前回の唯短編は書きたいことが書けて満足していますが。
長くなるのもあれですからこの辺りで終わりにします。新たな追加情報はほとんどないですが、一応SSのことについても少し触れているので、今夜更新する記事もお読みいただければ嬉しいかなと思っています。では!
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