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『けいおん!』リクエストSS・澪短編「夜の王様」

「修学旅行も明日で終わりだな……」
俺――藤川咲夜が晩秋の冷たい風を肌に感じつつ三階のベランダから下界を見渡せば、そこに広がるのは百万ドルの夜景。人々で活気づく商店街の明かりが、まるで眠れぬ夜を暗示しているかのようだ。
「ああ、もっと女の子をナンパしたかったぜ」
そんな冒頭の美しい雰囲気をものの見事にぶち壊してくれたのは、遺憾ながら成り行き上俺の親友役を務めている男――遠藤亮吾が室内に二つ置いてある背もたれ付きのちょっと豪華な椅子に座りながら放った一言だった。顔はいいのにチャラい、でも顔がいいからモテるという、全国の非リア充を敵に回すために生まれてきた男、それが遠藤亮吾である。
「亮吾らしいね……」
その向かい側の椅子に座る男――神代修二が、亮吾の台詞にツッコミとも言えないほどゆるやかなツッコミを入れる。俺と亮吾が中学からの親友(遺憾ながら)なのに対し、修二と出会ったのは高校一年で同じクラスになったのがきっかけだった。勉強は苦手だけどスポーツが得意で、何よりお調子者である修二と俺たちは自然と仲良くなり、クラスの名物三人組としてそこそこ名の知れた存在になったのだが、それはまた別の話である。
「…………」
「ん、どうした、潤?」
ベランダの縁に両腕を組むようにして乗せ体重を預けている俺、その服の裾をちょいちょいと引っ張る小柄な少年が一人。こいつは雨宮潤(あまみや・じゅん)と言って、修学旅行の班が同じことからも推測できるだろうが、俺たちのクラスメイトだ。
潤と出会ったのは高校二年でクラス替えをしたときだった。成績優秀、スポーツ万能、男なのに少女のように整った顔立ち、とにかく隙が見当たらないほど完璧人間の潤は、必然的にクラスの人々から注目を集めることになる。そんな彼だから、もちろん友人もたくさんいるかというと……実はそうではない。潤は普段ほとんど言葉を発することがなく、自分から人に興味を持ったり話しかけるタイプでもないので、交友関係は非常に狭いのだ。実際、俺は潤が俺たち(咲夜、亮吾、修二)以外の友人と遊んでいる姿をあまり見たことがない。では何故俺たちと潤が一緒に遊ぶまでの仲を持つようになったのか。それは……まあ、潤のことが気になった俺たちが色々とちょっかいを出しているうちに反応を返してくれるようになった、とでも言おうか。別にいじめたりしていたわけじゃないから、そこんところは誤解しないでほしい。
ともかく、そんな無口な潤が今回も口を閉ざして、ジェスチャーとアイコンタクトだけで何かを伝えようとしている。潤の視線と指が向かう先を見ると、それは部屋の入り口にある木造の扉だった。
「外に誰かいるのか?」
「…………」
俺の言葉にこくりとうなずく潤。どうやら正解したらしい。潤は人一倍「人の気配」に敏感らしく、よく背後から近づいてくる人物が誰かを当てたりすることがあるのだ。
「まだ消灯時間じゃないよな。先生ってことはなさそうだし……」
現在時刻は午後9時を少し回ったところ。一応、消灯の定刻は10時と決まっているので、先生が「お前ら、早く寝ろ!」とほぼ無意味な忠告をしに来たという可能性はまずない。
「まあいいか。開けてみりゃ分かることだ」
桜が丘高校が貸し切っている旅館だ、不審者が来訪することもないだろうと思った俺は、後ろをとてとてとくっ付いてくる潤と共に扉へと向かい、その扉を開いた。すると、そこにいたのは……。
「うわっ!?」
「あ、さっくん、元気??」
「咲夜さん、こんばんはです♪」
いきなり扉が開いたことにびっくりし素っ頓狂な声を上げた田井中律、のほほんと俺を愛称で呼ぶ平沢唯、いつも通り礼儀正しい挨拶をする琴吹紬――要するに、俺が所属する桜高軽音部の女子メンバーだった。みんな旅館に備え付けてあった浴衣を着ている。
「……何してんだ、お前ら?」
思わぬ来訪者の出現に、俺の頭には疑問符がたくさん浮かんでいた。まさか修学旅行の夜に女子が男子の部屋へ遊びに来るとは誰も思わないだろう。それなんてエ(ry
「お、わざわざ軽音部の美少女ちゃんが俺たちに会いに来てくれるとは、嬉しいねぇ♪」
「少なくとも亮吾目当てではないと思うよ……」
後ろで亮吾が阿呆な発言をしているが、修二がツッコんでくれたので無視することにしよう。
「まあ立ち話もなんだな。入れよ」
どうせ律たちが帰るつもりはなさそうだし、誰かと鉢合わせする前に入れてしまうのが正しい選択かもしれない。そう考えた俺は、律たち三人を部屋へと招き入れた。そして扉を閉めようとしたが、その時になってようやく気が付く。
「あれ、そういや澪は?」
もう一人の桜高軽音部二年生部員にして俺の恋人――秋山澪の姿が見当たらない。恋人なのになぜもっと早く気付かなかったのかというお叱りを受けそうだが、突然の事態に動揺していたからだという回答で許してほしい。
俺は推理を始める。唯、澪、律、紬の四人で一つの班だったはずだ。寂しがり屋の澪が一人部屋に残るなんてことは考えづらい。とすると残る選択肢は、班長会議に出席しているか、もしくは風邪でも引いて保健の先生のところにでも行っているか……。
「ああ、澪ならあそこにいるぞ」
顎に手を当てて頭を悩ませていた俺に、律があっさりと答えを提示した。律が見つめる先にいたのは……。
「……何やってんだ?」
部屋からちょっと離れた二又路のところで隠れている澪だった。顔を申し訳程度に覗かせ、仲間になりたそうな目でこちらを見ている。
「あ、え、えと……」
某海賊漫画に出てくるトナカイみたいに「べ、べつに部屋になんか入りたくねーよ、このやろーがー!」とか言ったりはしないが、その表情からは「私も部屋に入りたい……」という思いがにじみ出ている。ただ、澪の性格からして夜に恋人の部屋を訪れるという行為が恥ずかしくて積極的には出来ないのだろう。こういうときは俺が背中を押してやるべきかな?
「あっ……」
俺は部屋を出て澪へ近づき、壁のへりを握っている澪の手に自分の手を重ねた。そのままぎゅっと手を握り、何も言わず部屋の方へと歩いていく。澪は顔を赤くして俯きながらも俺の後をついてきてくれた。
「よーし、おっじゃまっしまーすっ!」
「わ?い、さっくんたちのお部屋だ?♪」
「お邪魔します(ニコッ)」
「お、お邪魔します……」
俺が澪を連れて帰ってきたのを確認し、律、唯、紬の三人は部屋へと入る。俺と澪もその後に続き部屋へと入った。
「それにしても、私たちが来たってよく気が付きましたね?」
自分たちがノックをする前に扉が開いたことを不思議に思った紬が俺に問いかける。
「ああ、潤が何か察知したらしくてな。教えてくれたんだ」
「潤、教えちゃダメだろ! サプライズだったんだから」
「…………」
律に理不尽な叱られ方をした潤はごめん、という目で律を見つめた。傍から見たら何を考えているのかよく分からないだろうが、仲の良い人が見ればその目は確かに謝っていると分かる。ちなみに潤は俺にくっ付いていることが多く軽音部の四人ともそこそこの交流があるから、少なくともこの場にいる者は全員潤の考えていることを理解できるはずだ。
「まあまあ、潤を責めるな。てかお前たちは何しに来たんだよ」
俺がそう聞くと、律どころか亮吾までもが「お前何言ってんだ?」という見下した目で俺を見る。何だ? 俺なんか間違ったこと言ったか?
「男女が夜一緒の部屋に集まってやることっていったら一つしかないだろ」
「ああ、一つしかないな」
さも当然のように答える亮吾と律。自分で聞いておきながら、男女が夜?という響きにいかがわしい妄想を掻き立てられドキドキしてしまう。そして、そんな俺の予想をいい意味でか悪い意味でかよく分からない方向に裏切る衝撃の単語が、二人の口から発せられる。
『それは……王様ゲームだ!』
「それは……」までハモるところに、馬鹿同士通じ合うところがあるんだな?と妙に納得してしまう。しかし「王様ゲーム」とは……。どこまで馬鹿なんだ、こいつらは。
「はあ……お前らな、そんなアホみたいなゲームに誰が付き合うん」
「私、やってもいいよ??」
「私もやってみたいわ?♪」
「俺も、まあ、やってみたい……かな」
「…………(こくり)」
俺がまだ喋っている途中にもかかわらず、次々とゲーム参加を表明していく仲間たち。あれ、俺の常識が間違ってるのかな? 高校生のノリってこんなもんなのかな?
俺はしばらく逡巡した。悩んで悩んで、そしてこんな名言を思い出した。
『踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃそんそん』
そのとき俺は決めたんだ。――阿呆になろう、と。(いいこと言った風の雰囲気を出したけど実際そんなでもない)
「よし、澪やるぞ!」
「え、ええっ!?」
自分からじゃ絶対に参加しそうにない澪をも強引に巻き込んで、健全な男女高校生八人による王様ゲームの火蓋が今、落とされた。


ここで王様ゲームを知らないよい子のみんなのために「王様ゲームとはなんぞや?」ということを簡単に解説しておこう。まず参加者は割り箸などで作られた番号付きのくじを一本引く。その割り箸の中には一本だけ先端を赤く塗ったものが含まれており、それを引いた者が王様に、その他を引いた者はその引いた番号を持つ者となる。王様は「○番が×番に△△する」といったような命令を出すことができ、たとえその命令がいかに理不尽な内容だろうとも、指名された番号の者はその命令に絶対服従しなくてはならない。いわば16世紀のヨーロッパで栄えた絶対王政を模したロールプレイングの一種であり、健全な男子高校生にとってこれ以上ないほど憧れの遊戯だったりするのである。
説明が終わったところで次は参加者の紹介といこう。男子は咲夜、亮吾、修二、潤の四人。因みにこの四人、性格は一部あれな奴がいるものの、顔だけ見ると皆なかなかのイケメン揃いなので、一部の女子たちからは「桜高のF4」とか勝手に名称を付けられていたりする。
一方、女子は唯、澪、律、紬の四人。今さら言うまでもなく、桜高軽音部の二年生女子四人組だ。男子と女子の比率が一対一、まさに王様ゲームにはおあつらえ向きの人数配分である。
さて、テンプレ通りの解説を終えたところで皆様お待ちかねの本編に移ろう。シャッフル係である紬が混ぜたくじの中から、各人が一本ずつくじを引いていく。全ての人が引き終わったところで、恒例の掛け声がかかる。さあ、王様ゲームの始まりだ!
『王様だ?れだ?』
「あ、私だ?♪」
初めに王様くじを引いたのは唯。あ、この節の実況は咲夜くんに代わり私、作者が担当させていただいております。

Round.1 王様:唯 fight!
「んーと、じゃあ……」
唇の下あたりに人差し指を当て、天を仰いでお願いごとを考え始める唯。その様子に、今は奴隷も同然な参加者たちはごくりと息を飲む。唯が一体どんな命令を下してくるのか、付き合いの長い仲間でも皆目見当がつかない。
唯はしばらく頭を捻らせていたが、やがて「あっ」という声とともに片方の手のひらをもう片方の拳で叩くという、何かを思い付いたときにするお決まりのポーズをとって言った。
「ケーキが食べたい!」
その瞬間、全員がひな壇芸人のようにガタガタと崩れ落ちる。
「お前なぁ、ルールわかってんのか!?」
あまりに突拍子もないことを言い出す唯に、真っ当なツッコミを入れる咲夜。
「え、王様の願いを何でも叶えてくれるゲームじゃないの?」
何の疑問も持たず平然と答える唯。やはり唯は何かを勘違いしているらしい。
「はあ……まあいいや。ほら、紬」
「はい♪」
咲夜の意図を察したのか、ムギは部屋の端っこへささっと移動する。そして再び皆がいる輪の中へ戻って来たときには、一体どこから調達したのか、手に美味しそうなショートケーキが乗っている皿を持っていた。
「うわ?、ありがとう、ムギちゃん!」
唯は目をキラキラ輝かせてケーキを見つめている。唯って食べ物さえ与えれば簡単についていきそうですよね……。お父さんは心配です。
「夜中に甘いもん食うと太るぞ??」
「もぐもぐっ……ごっくん。大丈夫だよ、私、いくら食べても太らないから」
律が意地悪そうに言ったが、唯は我関せずといった感じ。むしろ唯の発言に自身の体格を気にして落胆する澪とムギの姿が、見る者全員の同情を痛いほど誘った。

Round.2 王様:修二 fight!
二番目に王様となったのは修二。果たしてむっつりスケベの修二くんはどんな命令を下すのでしょうか。
「うーん、じゃあ4番の人に……」
そう言ってごそごそと鞄の中を漁り、中から取り出したるは……。
「このさわちゃん特製メイド服を着てもらおうかな」
黒と白のコントラストが眩しい、よくある萌え萌えなメイド服だった。なぜ修二がそんな衣装を持っているのか激しく疑問だが、そこは触れちゃいけないデリケートな部分なのだろうからみんな黙っている。
「ちょっと待て。しかも4番って……俺じゃねーかよ!!」
「げ、咲夜、お前かよ!?」
悲鳴を上げる修二と咲夜。どちらにとっても利益の発生しないこの状況を作りだしたのは、他でもない私、作者のまにまにです。
「そ、そうだ! 王様もなんか嫌がってるし、この命令はお流れに……」
メイド服を着たくない咲夜は、どうにかしてこの状況を打破しようと逃げ道を探す。そんな往生際の悪い咲夜へ向けて、修二を除く他の参加者から秘密兵器が放たれた!
「…………」
「な、なんだよ潤」
ぽん、と咲夜の前に立たされた潤。咲夜は意味が分からず困惑している。
「…………」
「うっ……」
そんな咲夜を、子犬のように愛らしい目でただただじっと見つめる潤。背が低いから自然と上目遣いで下から覗き込む体勢になっている。元々女の子みたいな顔立ちである潤がこんな風に迫ってくれば、流石の咲夜もたじたじである。
「むっ……」
そのやりとりを澪は頬を膨らませ面白くなさそうに見ていた。それはもちろん、自分の大好きな彼氏が可愛い男の子に誘惑(?)されているのだから嫉妬の一つくらいするだろう。え、私何か変なことでも言いました?
「……わかったよ。着るよ」
退路を断たれ追い詰められた咲夜はついに観念しメイド服を着ることになりました。因みに咲夜のメイド姿は……見ても別に面白くないでしょうから省略します。

Round.3 王様:咲夜 fight!
「ふ、ふふふ……覚悟しとけよ、修二」
次に王様へと就任したのは咲夜。先ほど修二にとんでもない恥ずかしめを受けさせられたせいで、口角が引きつった不気味な笑顔になっている。
「2番が6番に渾身の回し蹴り一発だ!」
「なっ!?」
修二の手に握られているくじ、そこに書かれている番号は……2。
「…………6番」
一方、6番のくじを引いたのは潤。咲夜くん、絶対に何か裏工作をしています。
「さあ潤、遠慮はいらない、あの馬鹿に天誅を食らわしてやってくれ」
「…………」
こくん、と頷く潤。潤は咲夜の命令には従順なのだ。
「ち、ちょっと待て潤! てか咲夜、お前絶対番号見ただろ!?」
「おいおい、変な言いがかりは止めてくれよ。回し蹴り二発に増やしちゃうぞ?」
さすがに怪しいと思ったのか、修二が咲夜の不正を暴こうとします。しかしそんな修二の揺さぶりにも動じず、毅然とした態度で迎え撃つ咲夜。久々に黒さっくんの御降臨です。
「わ、わかった! ごめんなさい! 一発で勘弁してください!」
結局、修二は咲夜のイカサマを見抜くことができず、素直に回し蹴りを受けることになった。やはり主人公対決では咲夜の方が一枚上手なようだ。
「…………」
まとまりがついたところで、潤はすう、と息を一つ吸い込み、回し蹴りをぶちかます体勢に入る。その構えは明らかに武道の心得がある者の構えなのだが、一体どこで習ったのかは定かではない。
「…………はっ!」
半眼で集中力を高めていた潤の眼光が突然鋭く光り、その華奢な身体からは想像できないほどの力で蹴りを放った。スピード、パワー、フォーム、どれをとっても一級品の回し蹴りに、観客から大きな歓声と拍手が沸き起こる。
「ぐああああああああああああっ!!!!!」
しかし、そんなパーフェクトな蹴りをもろに食らった修二はたまったものではない。断末魔を上げ部屋の端から端まで吹っ飛んだ修二は、そのまま息を引きと……意識を失った。
「な、なんか今“バキッ”とかいう鈍い音が聞こえた気が……」
「気のせいだろ、気のせい。さて、次行こうぜ」
修二の身を案じる澪と、借りが返せて御満悦の咲夜。因みに修二君は戦闘不能になったのでここでリタイアです。


Part.4 王様:亮吾 fight!
「じゃあ、3番が5番を情熱的に抱きしめる、だな」
エロ魔神の異名を持つ亮吾にしては、この命令はまだまともな方かもしれない。本人いわく「情熱的に」が重要な意味を含んでいるのだとか。
「お、あたし5番だ」
「…………3番」
「えっ! じゅ、潤!?」
5番を引いたのは律。3番を引いたのは潤。律は何やら焦っているように見える。
「おー、律よかったな。潤なら当たりじゃん」
「そうだな。少なくとも亮吾より全然いいだろ」
「おいおい澪ちゃん、それは酷いんじゃないか?」
結構好き勝手言ってる咲澪カップル。しかし超フェミニスト、もとい女たらしの亮吾は強く言い返せない。というか自分なりに自分のポジションを把握しているのか、特に反論する気もなさそうだ。
「い、いや、確かにうれしいけど……じゃなくて! いきなりそういう変な命令やめないか!?」
「何でだよ。王様の言うことは絶対だろ?」
「そ、それはそれ、これはこれだ!」
ちょっと本音が見え隠れしている律。咲夜の問いかけにもお茶を濁した言い訳しか返せていない。あれ、もしかしてりっちゃん、そういうことですか?
「なあ潤、潤からも言ってや……ひゃあっ!?」
「…………」
律が潤の方を振り向いたちょうどその時、ずっと黙りこくって(いつものことだが)会話を聞いていた潤が、無言で律の手を掴みその体を引き寄せ、ぎゅっ、と抱きしめた。
「な、あ、あっ……」
潤に思いきり抱きしめられた律は一瞬にして沸点突破する。潤の腕の中から抜け出そうと手足をじたばたさせているが、潤の力は先ほどの一件でもわかったように想像以上に強く、
律の力ではどんなに頑張っても潤の腕を振りほどくことはできなかった。
「へえ、潤やるじゃねえか。見直したぜ」
「潤くんって意外と大胆だね?」
「凄くいいわ……!!」
皆が口々に感想を述べる中で、ムギだけはひでんマシン5くらい目を輝かせてその光景を堪能している。おそらく潤が女の子っぽいことが興奮の度合いを高めているのだろう。
「じゅ、潤、もういいだろ? 早く離してくれ!」
「…………」
向かい合う体制で抱きかかえられているため、律は潤の顔を見ず肩越しに話しかける。しかし律の必死の訴えが通じることはなく、潤は律のことを離そうとはしなかった。
「気に入っちゃったんじゃないか?」
「じゃあもういいじゃん、そのままで」
「よくねーよ!」
そんなことを言いつつ、内心はもっとこうしていたいとか思っているのがバレバレなほど顔がにやけている律。隠れ乙女なりっちゃんの恋が少しだけ進展した夜だった。


Part.5 王様:潤 fight!
「…………王様」
王様ゲームも佳境に差し掛かり、潤が王様になる番がやってきた。女性陣が王様になる確率が低いのは話の展開上仕方がないので我慢してください。
「…………」
長い沈黙が部屋の中を支配する。正直なところ、潤が何を考えているのか誰にもわからなかった。まず、本当に考えているのかもわからなかった。
というのも、潤の腕の中にはまだ律がいたのだ。先ほどから体勢を変え律を後ろから抱きしめる形で座り、律の髪に顔をうずめている。自分の髪の匂いをくんかくんかされている律はもう恥ずかしすぎて戦闘不能状態に陥り、俯いたまま顔を上げようとしない。
みんなが「寝ちゃったんじゃないか?」と不安になりかけ始めたそのとき、潤は何事もなかったかのようにゆっくりと目を開け、そしていつも通り淡々とした口調で言った。
「…………1番と7番がキス」
「なっ……!?」
「えっ……!?」
潤の口から「キス」という単語が発せられただけでも相当な衝撃なのに、指名された人物がその衝撃をさらに大きなものにしていた。1番と7番を引いたのは――咲夜と澪。まるで潤が番号を知っていて、ピンポイントに狙いを定めたかのように思える。
「な、なあ潤、考え直さないか?」
「そ、そうだ! いくら何でもみんなの前でキスは……」
焦り始める咲夜と澪。澪なんて動揺しすぎて「みんなの前で」とかボロを出していることに気が付いていません。
「…………1番と7番がキス」
しかし王様の潤はあくまでも命令を変えようとはしない。このモードに入った潤はどんなに説得されても自分の意見を貫き通す。そしてその感情のこもっていない、他人に有無を言わさぬ強い言い方には、誰も逆らうことが出来ないのだ。
「ほら、王様が御立腹だぜ?」
「そうよ! キスした方がいいと思います!」
亮吾が潤の様子を察してか、咲夜と澪にキスすることを促す。ムギも興奮した気配でそれに乗っかってくる。かなり個人的な感情が表に出ているような気もするが、きっと気のせいだろう。あと生き残っているただ一人の第三者である唯も、ほんのり頬を赤らめつつ、今から目の前で起ころうとしているロマンスに心を奪われているようだった。
「????だあああ! もう!」
八方塞がりとなった咲夜は、もうこうなったらやけだ、と雄叫びを上げる。
「澪っ!」
「は、はい!」
いきなり大声で名前を呼ばれた澪は驚いて身をすくませる。しかしそんなことはお構いなしと言わんばかりに咲夜は澪の肩を掴み、正面を向かせる。
最初は戸惑っていた澪だが、やがて意を決したように目を静かに閉じる。それを確認した咲夜は、澪のふくよかで柔らかい唇に自分の唇を近付け、まさにキスをしようとしたその瞬間――――。

ガチャッ、という音とともに、部屋の扉が開いた。


「あなたたち、何をやっているんですか!?」
俺と澪の唇はゼロ距離まで接近し今にも触れ合おうとしていた。それをまるで図ったかのような絶妙のタイミングで阻止したのは、ホテル中に響き渡るのではないかと思えるほど大きな怒号だった。俺たちは何が起こったのか全く理解できず、その場でただただ硬直してしまう。
「もう消灯時間はとっくに過ぎてますよ! しかも男子の部屋に女子が入りこむなど、なんて破廉恥な……!!」
この甲高い声には聞き覚えがあった。校内でも規律に厳しいと評判の女性教師だ。語尾に「ざます」が付きそうなベタベタの三角眼鏡をいつもかけていて、眼鏡の下には可愛らしいお顔が隠されているとかいう都市伝説が噂だっているらしい。
って、今はそんなことはどうでもいい。その女性教師は部屋の中へずかずかと足を踏み入れてきている。このままでは不純異性交遊(?)の現場を押さえられてしまうのも時間の問題だろう。そして学園生活に支障が出るような処罰を下されてしまうのは間違いない。俺たち男共はまだいいのだが、軽音部のみんなに不名誉な箔が付くことは避けたい。
俺は皆と視線を合わせる。亮吾、潤、紬の三人は既に状況を理解し、また俺の考えていることを少なからず理解しているようだった。それなら話は早い。紬の瞬発力に少し不安が残るが、そこは運を天に任せるしかない。大丈夫、このメンバーならきっと上手くやれる。俺の中には根拠のない自信が沸々と湧きあがっていた。
俺はもう一度三人に目配せをし、最後に未だ硬直している澪を見つめた。目の前にいるお姫様を護ること。それがただ一人の騎士-ナイト-に任命された俺の役目だ。
「『三十六計、逃げるに如かず』ってな…………拡散!」
俺が発したその掛け声を合図に、亮吾が修二を肩に担いで、紬が唯の手を引いて、潤が律をお姫様だっこして一斉に走り出す。
「やあ、先生。今日も一段とお美しいですね」
「な、あなた、何を言って……」
「(失礼します!)」
「…………」
亮吾が先生の気を引きつけている間に、唯を連れた紬と律をだっこした潤が横をすり抜けていく。緊急事態にもかかわらず、紬の顔はどこか高揚感に満ち溢れていた。潤は相変わらずの無表情で、特に何も感じていないようだった。
「さて、じゃあ俺も行くかな。咲夜、あとは頑張れよ!」
「あ、こら、待ちなさい!」
紬たちが去っていくのを見届けた亮吾は色仕掛けを止め、持ち前の走力で廊下を駆け抜けていった。後に亮吾はこう語ったそうだ。「俺は年増に興味はないんだ」と。
あっという間に六人がこの旅館内のどこかへと消え、部屋には俺と澪の二人だけが残される。いや、先生がいるから三人か。
「あなたたちは逃げ遅れたようね。観念しなさい」
獲物を追い詰める猟師の目をした先生に迫られる俺たちは、じりじりと後ずさりすることしかできない。全身に当たる冷たい夜風が、体を湿らせる汗を少しずつ乾かしていく。
やがて背中に固いものが当たる感触が伝わる。これ以上退くことはできない、まさに絶体絶命のピンチ。ただ俺は知っている。ヒーローは、ヒロインのためならどんなことでも成し遂げられることを。
「澪、これからちょっと怖い思いさせちゃうかもしれないけど、我慢してくれよな?」
「咲夜……?」
俺が小声でそう呟くと、澪は不安そうに顔を歪める。今にも泣き出しそうな澪の顔を見ると心が痛んだが、こうするしか助かる術はないのだからここは我慢するしかない。俺は澪をおんぶして、澪にしっかり掴まっているよう指示した。澪の手が俺の首にがっちり回されているのを確認して、俺は先生と対峙した。
「じゃ、先生。おやすみなさい。あ、永遠にとかいう意味じゃないですから安心してくださいね?」
「……? 一体何を言って」
俺が先生の言葉を最後まで聞くことはなかった。その代わりに聞いたのは澪の悲鳴。ああ、これで人が集まって来ませんように……と、俺は落下しながら祈った。え、何で落下してるかって? そんなもん、“ベランダから飛び降りたから”に決まってるだろ?


ベランダから飛び降りた……といってもまさか本当に直接ダイビングしたわけではない。三階ならまだ助かるかもしれないが、よくても骨折は免れない高さだ。俺は地上めがけて飛び降りるふりをして下の階のベランダへと飛び移り、一階一階降りていったのだ。しかしこれだって書くのは簡単だが実際はかなりの重労働だ。何せ澪を背負っていたのだから。
「ふう……ここまでくれば見つかることはないだろ」
「はぁっ、はぁっ……」
澪を傷つけないように十分注意しながら地上へと降り立った俺は澪を背中から下ろし、澪の手を取って旅館の外へと脱出する。ばれたら停学ものだろうから、追手がいないのは不幸中の幸いだった。まあ先生に見つかって逃げた時点でもうかなりやばいんだろうが。
「悪かったな、怖がらせちゃって」
「いいよ、無事、だったん、だから……」
全速力で走ったため上がった息を整えながら澪が言う。ベランダから降りる際は恐怖で泣きじゃくっていた澪だが、走っているうちに涙は引いていったらしい。
「さて、これからどうするか……」
時刻は午後10時半ちょっと前。遠くの方で夜はこれからとばかりに光る商店街の明かりが、俺たちを手招きしているように感じられた。
こうなったらもうやけだ。高校生活最初にして最後の修学旅行、締め括りくらいは恋人と一緒に過ごしてもいいんじゃないか。どうせ怒られるなら、楽しまなきゃ何とやらだ。
「澪、想い出を作ろうぜ」
「え……?」
俺が商店街へ行きたいという旨を伝えると澪は少し迷った顔をしたが、思っていることは同じだったのか首を縦に振ってくれた。それを見て俺は繋いだままの手を引っ張り、商店街の方へと足を向け――
「おっと、その前に……」
――る前に、やっておかなきゃいけないことがあった。これをやらないと後で潤に怒られちゃうからな。俺は澪の顎に手を添え、くいっと上を向かせた。暗闇の中、しっとりと濡れた“それ”は月の光を浴びて美味しそうに光っていた。もちろん、繋いだ手は離さない。
「んっ……」
修学旅行中一度も味わうことのなかった澪の唇はとろけそうなほどに熱を持っていた。唇が触れるだけの軽いキス。それだけでも十分だった。もっと深いのは……その、あれだ。後でやればいいし。飽きるほど。
唇と唇の意思疎通を終えた俺と澪は、仲良く横に並んで歩きだす。色々と厄介なことはあるが、それはとりあえず置いておこう。今はただ、隣にいる彼女と一緒に忘れられないひと時を過ごすことだけを考えて、俺たちは夜の街へと繰り出して行った。


(終)



【あとがき】
あのね、王様ゲーム長い。そこで力尽きて最後が完全に尻切れトンボになった。後日談も書こうと思ったんだけどもう気力がなかった。……あ、こんにちは、綺羅矢的です。
まずこれは「けいおんSS」と呼んでいいものか激しく疑問です。修学旅行ネタだし、登場人物が多くなるのは仕方ないんですが、明らかにオリキャラの方がたくさん喋ってますよね。てか、自分で新たに作っといて何ですが、潤くんに愛を注ぎすぎました(笑)。
その話題の潤くん、初登場にして大活躍です。正直、修二よりいいキャラして……ゲフンゲフン。いや、修二って咲夜とキャラ被ってるからインパクトがないんですよね。自分で作っといて何ですが。その点、無口キャラは今までにいなかったタイプなので大分動かしやすかったです。背を小さめに設定したのも冒険でしたが上手く作用した気がします。
途中、若干BLっぽく演出したのは仕様です。でも咲夜の一番は澪なので安心してください(笑)。まず僕がBL好きじゃないので本気にはなり得ません。そっちの需要があるなら別ですが……ww
さて、長期に渡った(誰のせいだ)けいおんリクエストSSも、いよいよ次がラストの作品となりました。今回も王様ゲーム終了時までは気合入れて書いたんですが、やはりラストですから、全編に渡って納得できるように書いていきたいと思っています。題材がなかなか難しいんですがね。大まかなあらすじは完成しているので、後はじっくりと肉付けをしていきたいと思います。けいおん最終回までには……流石に間に合うよね? では!ノシ
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